◆日時:11月23日(火)17:00~19:00
◆参加者計28名(事務局4名含む)、講師2名
毎日のように食べているパン。戦後の食糧難の時にコッペパンが普及し、食パンが定番となり、フランスパンや、ドイツパンといったバリエーション豊かなパンの食文化が日本にも根付いてきたように思います。
美味しいパンが食べられるのは、小麦を作ってくれる農家がいて、その小麦を使って愛情込めてパンを作ってくれるパン職人がいてくれるからです。
おいしさのバトンリレーの中には、人だけでなく土中菌の働きや、麦穂を失敬するシカさんやツルさんも居て、それで北海道の全体の生態系のバランスが成り立っています。
そんな当たり前のことに、改めて感謝したい気持ちになった今回のパンオスリールでのESD-JカフェTokyoでした。
報告:後藤奈穂美
パンオスリール 店主 須藤宏幸さんのお話
◆パン屋を始めたきっかけは何ですか?
名古屋でサラリーマンをしていた頃、管理していたお店がパン屋さんで、興味本位で作ってみたのが始まりでした。色々なパンを作るのが面白くなってきて、自宅で様々なパンを作っていたころ、あるきっかけで、青山にあるチェコ料理店から、チェコのパンを作って欲しいと依頼を受けたことが趣味から生業への転換期でした
◆お店の名前の由来は?
パンを食べて笑顔になって欲しいという願いを込めて、フランス語で「笑顔入りパン」という意味のパン・オ・スリールとつけました。ミルク入りの珈琲をフランス語で、カフェ・オ・レと言いますよね?それと同じです。
◆大切にしていること
とにかく、一番は、美味しいパンを作りたいという思いです。ハード系、ソフト系などパンの種類によって、粉と酵母を使い分けます。気温、天候によって、発酵の時間が変わったりしますので、パンの声を聞くようにしています。
◆外国産の小麦を選ばない理由
外国産の小麦そのものが、悪いのではなく、遠く離れた日本へ輸送される間に食品の質は落ちていきます。その間、虫や鼠に食べられないように、また、輸出先に外来種を運んでしまわないように、ポストハーベストという農薬を使わなければなりません。直接、食品に農薬を使うため安全性も心配です。だから、なるべく産地に近いところの小麦を選びたいと考えています。
◆前田農産との出会いは?
美味しい小麦を求めて、あれこれ模索していた時、問屋さんから前田農産の小麦粉を紹介してもらいまし た。試しに使ってみたところとても美味しいので、それ以来もう10年近く前田さんの小麦粉を使っています。
前田農産食品株式会社 代表取締役 前田茂雄さんのお話
◆経営理念
前田農産の経営理念は、「お客様と共に種をまき、共に育ち、ワクワク感動農業を実践します。」農業は実際やってみないと分からない部分があるので、消費者と一緒にやっていこうという考え方でやっています。 農地が学校と近いので、開拓当初から学校に開かれた農場経営を続けています。 岡山から開拓民として入道した曾祖父はアイヌと共に暮らし、地元で生き抜く文化と知恵を伝授したから生き残れたそうです。 先代から面白いことにも積極的に挑戦しており、巨大迷路、日本一長いピザ、トーストアート等ギネス記録も持っています。
◆小麦の生産
前田農産で生産している小麦は5種類「ゆめちから」「キタノカオリ」「春よ恋」「はるきらり」「きたほなみ」。品種が多いと作付けする側から考えると大変ですが、購入する側からすると選ぶ楽しみができます。 健康診断のように、毎年、畑ごとに土壌分析を行なって、不足している成分を補うに留めて、余分な施肥はしないようにしています。収穫後の稲わらは、まとめて牛舎の敷き藁などに使い、糞尿等の有機物を大量に含んだ後、肥料として回収するという循環型の農業を展開しています。 残留農薬検査も毎年行なっております。人間のように、病気にかかった時に治療する薬は作物にはありません。例えば、インフルエンザ予防のためにワクチンを接種するように、いきなりタミフルを打つ人はいないと思います。そのワクチンに相当するのが農薬であり、どうしても必要な時に使っています。 トラクターの操作も、今はGPS付きのハイテクで、新人でも操作できます。均等に育つよう無駄な施肥を無くすために、レーザーセンサーで葉緑素の色を測り、生育の良くないところだけにピンポイントで施肥をすることができるようになっています。そのため、収穫までの間に、何回かこれを繰り返すうちに、畑全体の生育状態を均等にすることができます。
◆冬期のビジネス
小麦の収穫後、冬の間の仕事を作るため、ポップコーンを作り始めたが最初は霜で全量廃棄となってしまいました。そこで、アメリカの最北端のトウモロコシ畑に行って、情報を収集し、足りない温度を生分解性のマルチを使って補う独自の方法で、ポップコーン用のトウモロコシを育てることに成功しました。ポップコーンのパッケージのモチーフに作用したのは、畑に出没する動物の中からツル、ヒグマ、リスを選びました。現在は塩味しかありませんが、キャラメルバター味、わざび味を開発中です。
試食と質問タイム
最後にキタノカオリを使ったパンを食べながら、小麦の解説や質疑応答に応えて頂きました。
参加者アンケート結果
(アンケート回答者:16名)
上記の理由:
- 折角、対面会場でパンの試食があったのに、感想が少なかったと感じました。
- 「食」の大切さを改めて認識できました。
- パン屋さんにも小麦アレルギーの方がいるとは驚いた。必ずしも農薬の影響でないことも、再認識した。
- 美味しいパンを作るための素材へのこだわりが伝わりました。探究心。
- 地球に優しい、おいしいパン製造に対して、国内産・北海道産小麦にこだわり。
- あまり良くなかったと答えた理由は、回線が不安定でよく聞き取れなかった(その他複数)
上記の理由:
- 「交流と出会いの場づくり」に関する具体例がとても参考になりました。
- 「食」の現状の厳しさを再認識できました。
- 自分が納得出来る商品を試行錯誤しながら作る姿勢。
- 農業経営で多岐に渡る試みで成功したことは勉強になった。
- 内容が良く聞き取れなかったのですが、スライドで想像しながら聞きました。生物多様性の話をもっと聞きたかったです。
- 日本の食料自給率が低いことや、日本の関税の制度は変えていくべきだと思っていたけれど、良いと思う農業者の方もいると知ることができた。
- 製造製品に対して幅広く、且つ奥深くイノベーションに取り組み、生産、品質向上に寄与している事。
- 気になっていた小麦の生産減少の理由を知ることができた。(その他複数)
3.講師お2人のお話の中で最も印象に残ったことは何ですか
- パン屋と共に食文化を創る「食」の現状の厳しさを再認識できました。
- パン 日本の自給率3%
- 活動の根底にある消費者に美味しいものを届けたいというシンプルだけれど、強い想い。
- 小麦粉ひとつで、こんなにこだわりをもって研究を重ねておられること。農業をされている方の自然との向き合い方に、とても魅力を感じました。
- 気候変動に対応するために、農作物の品種改良が必要というお話。将来の品種改良のためには、遺伝子の多様性の確保は必要だなと思いました。(その他複数)
4.今回お話を聞いて、今後実践したいことはありましたか?それは何ですか?
- これから小麦の品種と産地を確かめるようにしたい。
- 消費者として日本の小麦生産者をこれからも支えていきたいと思いました。
- 食品の原材料サプライチェーンに関心を持つ。
- 食べ物はじめ、身の回りのものがどこでどのように作られたのかを知ることが大切と思いました。
- 日々の食品選びをより気を配りながら実践したいと思います。(その他複数)
5. 講師へのコメント、ご感想、オンラインセミナーの運営を改善するためのご提案などご自由にお書きください。
- いろいろ進行中に不具合がありましたが、今回の企画自体は素晴らしいと思います。
- 可能であれば、一部リモートで、一部は現地開催が望ましい。一つのテーマ複数の講師陣がいて、色々な視点でお話を伺えるのはさらに理解できる。
- この度は貴重なご経験、お話をしていただきありがとうございました。子どもたち、もっと多くの人たちに日本の農家の現状、小麦生産の現状、そして国産小麦を使ったパンの存在などを知っていただきたいと思いました。そして、それを支えるような行動を促していけたらと思いました。まずはシンプルに「美味しい」ものを食べるところから、始めてほしいと思いました。
- 体験談の本を出版しては。
- 所詮、リモート参加は提供される情報を出来るだけ理解しものにして行くのが目的ですが、講演会場参加者と講師との和やかな語らいも非常に理解に寄与しますね。
6.その他ご意見等
以下のような感想が多くありましたこと、事務局といたしまして、大変申し訳なく思っています。
- はじめ音声が小さく内容がよく聞き取れなかった。また、司会の音声は周囲の音で聞きづらかった。
- 画像が途切れ途切れになり、音声が途切れてせっかくの内容に集中出来なかった。
- せっかく準備していただいた内容が十分に伝わらず講師の方に申し訳なく思います。オンラインでのハイブリッドの場合、オンラインで聞いている側にとっては、通信環境の悪さはもちろんのこと、現場にいる方以上に周囲の雑音(食器の音、人の動き等で生じる音)が気になるもので、よく聞き取れずに途中で断念してしまうのも仕方のないことだと思います。運営側はこの反省を活かし、よりよい運営に努めて下さい。(応援しています。頑張れー!)
前田さんの小麦を美味しいパンにしてくださる須藤さん、どちらもかけがえのない存在です。
住 所:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-4-6-1F(渋谷駅から徒歩5分、表参道駅から徒歩9分)
営業日:火曜~土曜 午前8時〜午後6時 定休日:毎週日曜・月曜
バリエーション豊かな小麦粉、珍しい国産の十勝ポップコーンがご購入いただけます。