2018年6月17日、ジオパークの専門家の方々をお招きし、ESD車座トーク『ジオパーク×ESD』が開催されました。
ジオパークは地域の自然や人材を活用した持続可能な地域社会づくりに取り組むプログラムの1つで、今年4月に「伊豆半島ジオパーク」がユネスコ世界ジオパークに認定されました。
そんなジオパークとESDは実はとても親和性が高いことをご存知でしょうか?
ジオパークは地質学的な価値だけを取り扱うのではなく、その土地の成り立ちやそこで形成されてきた人々の歴史や文化、食べ物や飲み水といった多様な側面を知り、持続可能な地域づくりを目指しています。ESDではこれまで様々なテーマや手法で持続可能な社会について学び、イメージしてきましたが、地域における持続可能な開発の具体的な事例としてジオパークの活動はとても参考になりました。
講師のお2人からジオパークの活動内容について具体的な事例と共に紹介して頂き、参加者の皆さまからは熱心な質問が飛び交いました。車座トークのレポートはこちらから
トークの後は、ジオパークで実際に野外教育として行っているフィールドワークの模擬体験ができるワークショップが行われました。静岡県三島市を題材に、三島市の特徴的な大地が形成された経緯、そこで育まれた人々の歴史や文化、生活、そして共生する動植物について学びます。また、現在三島市が抱える課題についても共有します。
参加者は話題提供の中で出てきた事象を書き起こし、ジオ、エコ、ひとの3つに分類し、関係性や繋がりを見つけていくというワークショップです。
講師から話題提供して頂き、その時に出てきた事象を書き起こし、ジオ、エコ、ひとの3つに分類し、これらの事象について関係性や繋がりを見つけていく。
■ジオ:地形・地質に関係するもの→青色の付箋
■エコ:動植物に関係するもの→ピンク色の付箋
■ひと:人間の活動・歴史・文化・産業等に関係するもの→黄色の付箋
【話題】
静岡県三島市について、土地の成り立ち、三島市の動植物、文化や人々の産業活動、課題を共有する。
①三島市とは
・10万人都市、山々に囲まれた半盆地状の地形
・三島駅には新幹線が止まる
②三島市の成り立ち
・1万年前の富士山の噴火により、三島溶岩が御殿場線に沿って流れ扇状地のように広がった
・2900年前、富士山で大規模な山体崩壊が発生し、御殿場の市街地を100mほど埋め立てた
③三島市の特徴
・溶岩流の隙間から富士山の雪解け水が湧き出てくるため、三島市は湧き水がとても多い
・町の中心を始点とする川がある(湧き水が豊富なため)
・三島駅周辺は溶岩露出エリア、溶岩が停止したところは膨らみ高台になっている
④三島市の動植物
・豊富な湧き水により、豊かな水辺の環境が生まれ固有種のミシマバイカモ(多年生の水草)、カワセミ等の存在する自然環境がある
⑤三島市の歴史
・明治28年頃の三島は、東海道線も接続しておらず交通から見放されていた溶岩エリア(三島駅周辺)は未開のままだった。町中を網目のように用水路が走り、人々は生活の水として利用し、水と親しんでいた。
・経済成長期になると東海道線が通り、新幹線の停車駅となり、三島駅周辺の開発が進み町は大きく発展した。
・豊富な地下水を利用する工場が進出。地下水をたくさん汲み上げたことで町の豊富な湧き水は減少した。
上水道が出来、用水路を利用する必要がなくなった。人々は生活排水を用水路に流すようになり、一時期は水質が汚染されてしまった。その後、市民や行政、企業が協力して水辺環境を回復する活動を行い、景観は蘇った。
・現在、三島は蘇った水辺の環境を、観光や動植物の観察に活かし町づくりを進めている。
⑥現在の課題
・三島駅南口の再開発で高層マンションの建設計画がある。これにより、景観が失われ、地下水に影響が出る可能性が示唆され、水で町づくりを進めてきた人々から反対運動が起きている。
・中心のジオには、富士山の噴火から溶岩が流れ、その溶岩に水が浸み込み湧き水が豊富になった事象を出した。
豊富な湧き水による水辺環境から、カワセミやミシマバイカモといった水草の生態系が形成された。(エコ)
その水辺環境を活かした公園等を整える人々により癒しの空間が生まれ町づくりができた(ひと)
さらにはそれの水辺環境を売りにしたタワーマンション建設に繋がった(ひと)
講師よりまとめ
繋がりを考えたら、その次は繋がりの中で考えることが大切。
例えばタワーマンション建設のような再開発が起こると湧き水が無くなる可能性がある。湧き水が無くなれば、水辺環境は維持できなくなりカワセミの生息する癒しの空間、魅力的な公園も無くなり、そこに価値を感じていた町の人々も離れていき人口減少につながるかもしれない。
では、湧き水に影響なく、付加価値をつけるにはどのような町づくりをすればいいか考える。
このようにジオパークでは、繋がりを作ったらその中で考えていくことを実践しており、地域の持続可能な発展に向けた課題解決の1つの手法として取り組んでいる。
参加者の感想(一部抜粋)
・ジオパークは環境保護を重視したものだとイメージしていたが、ESDとの親和性がとても高いものだということを体感することができた。
・最近のSDGsの論議ではターゲットの話ばかりでてくるが、SDGsは社会と経済と環境の調和であり、どれを優先させるという選択肢ではないはず。そういう意味では、ジオパークのようにサスティナビリティを考えることは共有したいと思った。
・日本各地に面白い地質や地形は多くあるが、教育、ESDとの関連性はまだまだ薄く、その親和性を理解している人も少ない現状にある。世界にはジオパークを単なる観光としか見ていない地域も多く、教育をきちんと入れられるようなガイドラインや基準が必要なのではないか。
コーディネーター大塚理事よりコメント
私自身、ジオパークについては地学というイメージが強く、ESDとは関係性が薄い気がしていた。しかし、2016年に伊豆半島の沼津で開催された日本ジオパークの全国大会に参加したところ、「ジオパーク教育」とESDは実は親和性が高いことが理解できた。まさに「ブラタモリ」の世界だった。
大地が生まれ、その上に自然が育ち、そこに人が住み着いて歴史や文化が生まれたという大地の歴史を学ぶことで、子どもや大人もその土地ならではの産業や文化の意味や価値をより深く理解することができる。その深い理解が地域への愛着や誇りへとつながり、持続不可能になっている現状に対する課題意識へとつながっていく。
これは正にESDでありこれからの教育にとって必要な学びであると思う。
この車座トークを機に、ESDとジオパーク教育が結びつきESDの裾野が広がって欲しいと願う。

懇親会での集合写真
(ESD-J 事務局)