1.学校は「民主主義を教える使命」を担う場所
スウェーデンでは、学校は民主主義を実践することで、生徒たちに民主主義を教える場所と考えられています。そのため、子どもたちは、教室の環境、給食、決まり事など様々な教育環境の改善のために積極的な参画が促進されます。加えて、生徒は、責任を取る経験、影響力を伴う参加の経験、そして民主主義の形態でのトレーニングの経験をする必要があると考えられています。
具体的には、学校活動の一部として存在する給食協議会、クラス会議、生徒会というような組織と、学校の枠を超え、任意で参加する全国生徒組合、全国学生組合というような全国組織があり、それらへの参画を通じて生徒自身に関わる課題や問題について話し合い、様々な提案を行っています。
また、学校では4年に1度のスウェーデンの国政・地方選挙に合わせて18歳未満を対象にした模擬選挙を実施しています。政治家・政党青年部を招いた政党ディベート大会も学校で開催されます。これは、「学校は価値中立とはなり得ない」と認め、その上で学校は民主主義を絶対的な価値として浸透することに努めているためです。このような経験を通じて、生徒たちは民主主義の体験を積み重ねていきます。
また、スウェーデンでは、若者が所属し自由に活動できる組織、余暇を楽しめる場等が充実しています。
「若者団体」は、非営利の団体で若者達が出会い、交流し、自己を変え、日々をより良いものとする場として認識され、運営には政府の助成金が充てられています。若者団体は、多種多様な目的で形成されています。(例)趣味、スポーツ、宗教、圧力団体 (interest group)、エスニック系、文化、禁酒、連帯(Solidarity)、政治、野外、障がい、先住民族、環境など。12歳から15歳の子どものうち、約7割が地域のクラブ活動や協会活動に週に1回、参画しており、16歳から18歳になるとこの割合は5割に下がりますが、それでも多くの若者が属し活動しています。政治家、行政への提言・質問・意見具申なども行う若者審議会や、若者世代を重視した政策を政党本部に提案する政党青年部なども若者団体に含まれます。
13歳から25歳を対象に、全国290の自治体に1,500の施設があります。ユースセンターは、政府の助成金で運営されています。ユースセンターの特徴としては、以下の3点が挙げられます。
- 開放性:会員証の撤廃、利用料の無償化
- 自由性:個人 > 集団。集団よりも個人をより重視。
- 無目的性:特にしたいことがない若者がくつろいでいられることが重視
日本では、講座やアクティビティを提供するような「学びの場」としてのセンター、「参加してみませんか」という招待型の施設はありますが、目的がなくても、若者だけが好きな時にふらっと集まれる公共の場の提供は少ないのではないでしょうか。
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- 「若者は社会の問題ではなく社会のリソース(資源)」
- 若者の社会参画の結果としての「影響力」を目標にしています。(参画が目的なく、参加による影響力を生み出すことが目的)
- 若者団体への助成金が目玉政策であり、約30億円の助成金を106の子ども・若者団体に拠出(2014年)
- 若者団体と若者政策を作ることを目指しています
これは「何かの一部であると 感じる」ことの効果についての理論で、社会や何らかの一員であると感じられるならば、決定への参画も心地良く感じるという理論です。(中略)つまり、自分たちが何かの一員であるという感覚をどのように与えられるかが大事ということです。 日本の若者が、社会活動に参加する意義、意欲を見いだせないのは、社会の一員であるという認識を生み出す仕組みがないからではないでしょうか。
<結論>1.スウェーデンは、あらゆる人(年齢・ジェンダー・国籍・エスニシティ・身体障害・思想信条)が参画できる社会を実現しているから、若者の参画も活発です。
• 自発的結社を通じた「生活形式の民主主義」が実現しています
2.社会への影響力を高める「若者政策」が整備されているから
• 自由な人生を歩める移行期の選択肢の保障、失敗してもやり直せる保障があります。
• 社会的な余暇の保障が手厚いです。
• 市民社会セクターへの投資により、若者の社会への影響力を高め、民主主義を実現する社会参画への投資が充実しています。
• 若者団体、学校、ユースセンター等の仕組みが整っています。
最後に、日本の課題について、並びに改善のための提案をしていただきました。主な課題としては、学費、居住費、子育て費が高額であること、「若者の社会参画施策」の啓発アプローチへ偏重していること、そして、公的な事柄より私的な事柄に関心の高い日本の若者の傾向が挙げられました。
社会への参画の起点としての学校教育を捉え、実践の場とすることの重要性が強調されました。具体的には、生徒、教員、保護者が参画する「民主的」な学校への転換や、子ども・若者を「いち市民」と扱い、外発的な動機づけ(賞罰、受験、単位など)による教育の脱却などが挙げられました。 生活の一部に当たり前のように民主主義が根付いていること、それがスウェーデンの現状であり、日本社会に欠けていることであることがよく分かりました。 両角さんのお話を伺った後、参加者からは、日本とスウェーデンの生徒と先生の関係性の相違、若者協議会が生まれた背景や予算について、ユースセンターの運営資金について、日本の若者議会や若者会議についてなど、時間いっぱいまで多くの質問が挙がりました。<アンケート結果>
Q1.日本福祉大学・両角達平さんのお話はいかがでしたか。(N=51)
Q1-2.その理由は: (代表的なものをいくつか)
「大変良かった」の理由 |
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「良かった」の理由 |
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「普通」の理由 |
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Q2. 話の中で最も印象に残ったことは何ですか? (代表的なものをいくつか)
- ユースセンターや、若者団体の活動についてのお話がとても印象に残りました。
- 「社会として余暇を大切にする」というお話が特に印象的でした。
- 学校での主権者教育、自分の意見を伝えて実現する機会が設定されていること。
- 余暇の大切さ、ユース支援の場所の無目的性、開放性、自由性が大切だと言うこと。日本は人生の選択に自由度が低いこと。それが結果として、生きづらい世の中としていること。
Q3. 話を聞いて、今後実践したいことは? (代表的なものをいくつか)
- 若者が社会参画できる環境整備に協力する。
- 議員になる友人・知人を応援する、寄付する。
- 日本での具体的な仕組み(システム)づくりを地域の中から考えたい。
- 学校における主権者教育を行うための基盤、「自分達のことを自分たちで決められる」「自分たちで学級、学校を変えられる」という具体的な実践。
Q4. 講師へのコメント、ご感想などご自由に (代表的なものをいくつか)
- たまたま、Twitterで見つけた勉強会でしたが、参加して本当に良かったです。両角先生の研究されている内容は、ちょうど私がこれから留学先や自分の大学で学びたい内容だったため、今日のお話は私にとってとても刺激的で楽しかったです。
- わかりやすい言葉で伝えていただきありがとうございました。
- 指摘された日本の課題を解決するために必要なこと等、具体的な事をお聞きしたい。
- 聞き逃したところがあるので、アーカイブ配信があれば教えてください。
- 「若者からはじまる民主主義」萌文社
- スウェーデンの主権者教育の教材「政治について話そう!」図書出版 アルパカ
- 両角さんのブログ
- 両角さんのTwitter
参加者の一部:一段目中央が講師の両角さん。
