令和3年度ローカルSDGs人材育成地方セミナー 【長崎県対馬市】 「海洋プラスチックから考える対馬型SDGs」報告

日   時: 2022年1月29日(土)14:00~16:00
会   場: 長崎県対馬市厳原町今屋敷661-3
対馬市交流センター
参加者: 参加者総数 120名
(内訳)一般参加者数合計116名(会場参加者16名、オンライン参加者100名)
司会1名、講師2名、関係案内人1名
講   師: 堅達 京子さん(NHKエンタープライズ・エグゼクティブ・プロデューサー)
関係案内人: 川口 幹子 さん(一般社団法人対馬里山繋営塾 代表理事/対馬グリーン・ブルーツー
リズム協会 事務局長)
司   会: 阿部 治さん(立教大学名誉教授、特定非営利活動法人持続可能な開発のための教育推進
会議代表理事)
講師 堅達 京子さん

講師 堅達 京子さん

講師 松井 秀明 さん

講師 松井秀明さん

関係案内人 川口 幹子さん

関係案内人 川口 幹子さん

司会 阿部治さん

司会 阿部治さん

会場の外観、会場の様子

対馬市の中心部、厳原(いずはら)の城下町に建てられた交流施設。ショッピングモールや図書館なども併設されており、文字通り、市民の交流の拠点になっています。

1.概要

九州と朝鮮半島の間に存在する国境離島・対馬は、日本海への入り口として、東アジア、東南アジア諸国と繋がっています。海岸には、膨大な海洋プラスチックごみ等が漂着し、その処理は対馬市にとって大きな負担となっています。SDGs未来都市に認定されている対馬市は、これらのプラスチックごみをサーキュラー・エコノミーの視点での処理を目指しています。

本セミナーでは関係案内人より、対馬の地理的・歴史的・文化的な位置づけを踏まえ、なぜ対馬で海洋プラスチック問題を考えることが重要なのかを説明していただいた後、堅達講師からは、気候変動をはじめとする地球の危機、海洋プラスチックごみの現状、環境に与える影響などを解説し、脱プラスチック社会に向けて、特に若者に出来ることは何なのか等お話いただきました。松井講師からは、対馬に移住し、一般社団法人対馬CAPPAの一員として、対馬のごみのモニタリング調査の実施、海岸清掃のボランティアの受け入れ窓口、海ごみに関する授業の実施、環境スタディツアー、対馬市海岸漂着物対策推進協議会の運営などを行っているとの紹介をいただきました。

その後、松井さんから堅達さんに対する実践者の視点からの質問や、会場の参加者やオンライン参加者との質疑応答が行われました。

2. 関係案内人・講師の報告内容

(1)関係案内人:川口 幹子さん

まず、対馬は韓国に非常に近いという地理的な特徴をお話しいただきました。そのため、昔から日韓交流がとても盛んな島で、観光客が多く来訪し、またコロナ禍以前には日韓合同のビーチクリーニングなども行われていました。対馬は、食文化など様々な大陸文化が入ってきた場所であり、また渡り鳥等の多くの生きものの交差点の地でもあります。

対馬の海岸には多くのごみが漂着しています。主なものとしては、漁具、発泡スチロール、プラスチックの容器等のプラスチック製品、ペットボトル、そして流木等です。海流の関係で、中国や韓国のほかにも東南アジアの国々からもペットボトル等のごみが流れ着いています。また流木は、ここ数年で急激に量が増え、ゴミ全体の38%を占めています。流木の増加は、山に土砂を止める力がなくなっており、森が危機的状況であることを物語っています。漂着ごみから、産業のあり方、私たちの暮らしのあり方、世界とのつながり、自然環境の課題などが見えてきます。

そこで、講師の堅達さんからは、グローバルな視点で、松井さんからはローカルな実践活動に基づく視点で、対馬の課題を捉え、対馬だからこそできるローカルSDGsの取り組みについてお話いただきます。

(2)講師: 堅達 京子さん

SDGsや気候変動を扱った様々な番組制作に関わってきた経験をもとに具体的な国内外の事例を挙げながら、気候変動をはじめとする地球の危機、海洋プラスチックごみの現状、環境に与える影響などを解説し、脱プラスチック社会に向けて、特に若者に出来ることは何なのか等お話いただきました。

まず、SDGsのウエディングケーキが示すように、環境とは社会、経済等、全ての活動の土台である点が強調されました。

ごみの中では特にプラスチックが環境に与える影響について注目されていますが、マイクロプラスチック、より小さなナノプラスチックが生態系や人体へ与えうる影響に加え、ごみになっているプラスチックからメタンガス、エチレンガスが自然発生し、温暖化にも重大な影響を及ぼすことが分かってきました。そのため、温暖化対策としても河川からプラごみ回収を目指す船の開発など、海洋ごみを出さない、あるいは回収するための取り組みも進められています。

石油由来のプラスチックは、製造する際、運搬する際、そして廃棄する際にもCO2を排出しています。プラスチック対策としても使い捨て経済から、循環経済へと変えることで温室効果ガスの排出を削減する取り組みがヨーロッパや諸外国では進んでおり、使い捨てプラスチックや発泡スチロールの使用禁止等が進んでいます。循環経済(サーキュラーエコノミー)とは、資源から製品を生産、消費してごみとなったものは再資源化して新たな商品として生まれ変わるというサイクルです。素材や設計の段階から、循環させることを意識した商品開発をすることが重要であり、SDGsの目標12「つくる責任・つかう責任」の達成にも繋がります。海外では、リサイクルをすることを想定したリサイクルしやすい包装容器を用いたり、CO2排出量がレストランのメニューに明記されていてCO2の排出量が食事を選ぶ基準にもなったりするなど、日々の暮らし、選択の中に当たり前に循環経済の仕組みが入ってきています。

日本では、プラスチックの回収率が8割以上と高いものの、熱回収のリサイクル率が57%と高いことが課題です。日本の企業も、リサイクル可能なプラ容器の開発、リサイクルプラの利用率を上げるための取り組みなどを進めています。消費者は、商品選択、企業選択を環境の視点で行うことで、企業を変えていく、影響力を持つことができます。2022年4月には、プラスチック資源循環促進法が施行され、特定プラスチックの使用の削減義務や、環境配慮設計の指針が組み込まれることが、注目すべき点です。

以上を踏まえて、もはや小手先の取り組み、アプリの変更では本問題を解決することは不可能であり、システム全体、OSそのものを変えなければいけないということが明言されました。その中には、サーキュラ―エコノミーが組み込まれていることが重要である点も強調されました。加えて包括的な取り組み、トータルソリューションが大事であり、対馬では過疎高齢化などの様々な課題と一緒にプラスチック問題をはじめ、SDGsの各目標などについてトータルで取り組むことが重要と締めくくりました。

(3)講師:松井 秀明 さん

家族の都合で訪問した対馬の魅力(自然、グルメ、歴史など)をYouTubeで発信したいと思い、対馬に移住しました。海ごみの量に驚き、一般社団法人対馬CAPPAの一員として、海洋環境の保全に関わるようになりました。対馬のごみのモニタリング調査(重量、容量の定期的な調査、ごみの種類やどこから流れてきたか等)の実施、海岸清掃のボランティアの受け入れ窓口、海ごみに関する授業の実施、環境スタディツアー、対馬市海岸漂着物対策推進協議会の運営などを行っています。対馬の海の魅力を伝えるためにマリンレジャー(シーカヤック)を提供しており、海の美しさを知ることでより、ごみ問題に取り組む大切さを実感してもらうことができます。

海洋ごみを日頃から回収するにあたっては、優先順位をつけて回収する必要性を感じています。優先順位が高いのは発砲スチロールで、理由は、軽いために回収しやすい、崩れやすいためにマイクロプラスチックになりやすい、見た目が悪いので観光に悪影響があるためです。回収した発泡スチロールは、ペレット化され、ボイラーで燃やして熱エネルギーに換え、温泉施設などで活用されます。ペットボトルも多くあります。中国や韓国、東南アジアからも多く流れてきます。地理、海流上の関係で対馬において回収できないごみは、日本海に流れていき、マイクロプラスチックになります。そのため、より多くのごみを対馬で回収できれば、日本海のごみを減らすことにも繋がります。

地方には都市部と比較して無いものが多いですが、そこにこそビジネスチャンスがありますし、新しいことを始めることこそ若者の力が発揮できると思います。若者の一人として、今後も対馬を盛り上げていきたいです。

(4)教えて堅達さんコーナー

漂着ごみを日常的に回収している松井さんから活動する中で疑問に思っていることについて、堅達さんに質問を投げかけました。

Q1.ヨーロッパや他の地域の海においても対馬と同じようにプラごみの漂着の問題がありますか。
A2.ヨーロッパに限らず世界中の海で同じような漂着ごみの問題はあると思います。豪雨の際に本来流れるはずではなかったごみが海に流れ出してしまうケースが多いと思います。
Q2.日本でペットボトルのデポジット制が機能すると思いますか。
A2.日本では、既に回収の仕組みがあり、また飲料メーカーが今後独自に回収できるようになるため、デポジットの仕組みは導入が難しいかもしれないですが、ポイント制などインセンティブをつけることで回収率を上げるという取り組みは有効かもしれないです。ポイント制など楽しんでリサイクルを継続できる仕組み作りも大切だと思います。
Q3.漁具の問題等について、漁具や食品の容器の素材を変えないと海ごみは増え続けると思います。世界的に自然に優しい素材に変えていく事例などはあるのでしょうか?対馬で有名な穴子漁の蓋は、10%程度が海に流れてしまうそうなので、流れてしまうことを前提にした素材の選択、商品開発も必要ではないかと思いました。
A3.新たな漁具開発の課題として強度の問題があります。さらに漁業に携わる方が漁具をきちんと廃棄・処理しやすい仕組みやインセンティブを行政がつくるということも必要です。現在、WWFなどが漁具問題への取り組みを開始し、多くの企業が開発していると思います。将来、対馬発の環境に優しく強度が高い新たな漁具を提案することもできると良いと思います。
Q4.対馬では、ごみをマテリアルリサイクルするには、福岡などに運搬しなければならないという課題があります。そのため、離島では、燃料としてリサイクルする方が、全体ではCO2排出を減らせるのではないでしょうか。
A4.ライフサイクルアセスメント(LCA)をベースに熱として対馬で使う場合と、本土に運搬してマテリアルリサイクルするケースでCO2排出を比較して、より良い処理方法を選択すれば良いのではないでしょうか。

3.コメント・質疑 

(1)会場参加者からの質問・コメント
Q1.オーシャンクリーンアップCEOのボイヤンさんの事例の中で、太平洋ごみベルトに日本からのごみが一番多かったという報告にショックを受けました。日本人は海洋ごみの被害者であると同時に、加害者でもあるということを念頭に環境教育などを行っているのですが、非常に日本のごみが多く見つかったことに対して、どのようなお考えをお持ちですか。
A1.まず、調査をした時期が、東日本大震災から数年後でありその影響が大きかったと推測できます。しかし、その影響だけでなく、日本から相当な量のごみが流れ出ているのは事実です。1970年代頃、環境意識が低かった時代には多くの廃棄物が海に流れ込んでいたと推察されます。そのごみが、今でも漂い続けているということも一因と考えられます。東京湾の底には高度経済成長時代のごみが堆積しています。更に、豪雨災害の際などに相当量のごみが流れ出ていると考えられ、これら3つの要因が主なものと考えています。
Q2.冒頭で川口さんが森と海ごみの関連性について問題提起されましたが、対馬において、森づくりから環境を考えていこうというアプローチがあれば教えていただきたいです。
A2.協議会の中で流木の問題も議論はされていますが、プラスチックごみの回収・対策が優先されています。森は、シカ・イノシシの影響で荒れてしまっているので、シカ・イノシシの対策は実施されています。海に海藻がなくなっている原因が、山の荒廃であるということで、漁師さんが植樹の活動、森を育てて、魚を増やそうという取り組みを「がや」という地域で行っています。
(2)ウェビナー参加者からの質問・コメント
Q1.海岸清掃のボランティアは、どのような年代の人がどのような目的でやってくるのでしょうか。また、ボランティアが回収したごみはどのように処理されているのでしょうか。
A1.海岸清掃のボランティアは、昨年の例ですと大学生のサークル、企業の研修として参加されました。毎年参加してくださる企業の方もおられます。回収したごみは、対馬市のセンターに当団体が持参したり、市に依頼して回収していただいたりして、適正に処理しています。
Q2.プラスチックを回収する仕組みについての提案ですが、プラスチックを回収すると、一定額で引き取ってもらえる仕組みがあると回収するコストを削減できるのではないでしょうか。
A2.日本の場合は、廃棄物の処理法に基づき、専門の資格を持つ人のみが廃棄物の処理が行える仕組みです。そのために廃棄物の回収や処理には様々な複雑な制約があります。しかし、サーキュラー・エコノミーに基づく廃棄物の処理を考えた場合、実情や目的に合わせてルールを変えていくということも必要であると考えます。

4.アンケート結果概要

事後に実施したアンケートでは、参加者から以下のような質問やコメントが寄せられました。

  • 堅達先生の学術的で専門的なお話と、川口さん、松井さんの若者視点でローカルな話の両方が聞けたことで、SDGsの取り組みに対してより一層の関心がわきました。
  • 対馬で起こっている現状を現地で活動している方の視点で知ることができた。堅達先生のグローバルなお話と、松井さんのローカルなお話がうまくリンクしていた。
  • 現代の世界が抱える大きな問題を対馬の海岸から考えるという今回のアクションにより。複雑で難しい問題が身近になり、当事者意識をもってこれから生活していこうという思いになりました。
  • 河川から流出するごみを回収する取り組みのところが印象的だった。海よりも出口になっている川へと取り組みが続いていることは知らなかったのでとても興味がわいた。
  • 対馬が日本海に入る海流の入り口で、プラごみが集まる場所に位置している事、また、放置されているプラスチックからも温室効果ガスが発生しているということがわかりました。
  • ローカルSDGsをすすめるには総がかりでイノベーションを起こすこととトータルソリューションを意識すること(仕組みを変えること)、その鍵は若者にあるということが印象的でした。
  • 対馬にいるとどうしても漂着ごみが流れ着く側だと思いこんでしまうのですが、太平洋ごみベルトの話から、日本にいる私もごみを出す側の1人なのだと意識が変わりました。
  • 太平洋ごみベルトや、世界の小学生が発信したり行動したりしているという事実が、衝撃だった。おや?と思ったら考えて動くという柔軟性や力を、もっと日本の大人も子供も意識していかないといけないと思いました。
  • 堅達京子さんの講演が大変印象的でした。マイクプラスチックが気候変動に影響を与えていること。サーキュラ―エコノミーのためにも設計、素材から商品のデザインが必要なことなど、身近な人に伝えたいです。
  • 東京オリンピックの頃のゴミがまだ海底には眠っているというお話、つまり今私たちが出してしまっているゴミも未来世代にまで残る可能性があるということが印象的でした。1分でも早く、ゴミを出さない仕組みを作り、実行していかねばならないと思いました。
  • ナノプラスチックの中に入っている添加剤の化学物質が小腸や胎盤にたまり、健康に悪影響を与えること、2030年より前に1.5度を超えてしまう可能性が高いこと、いかに海に流さないようにするか、循環させるための取り組みの大切さなど、たくさんの気づきがありました。
  • 海ゴミという切り口のセミナーだったが、この問題をきっかけに地域の他の課題や、魅力についても知るきっかけとなった。ゴミを出さない、源を絶つという取り組みこそ、他の地域の人々が取り組むべきだと思った。堅達さんが仰るとおり、包装材のデザインをリサイクルしやすい形に最初からデザインするというような取り組みが全ての製品に対して行われるべき時に来ていると思った。そういった点は海外の先進事例に学ぶべきだと思う。
  • 産業の中で海ごみにつながるプラスチックを生産してしまっている企業、組織は、法律や仕組みのしがらみの中で変えたくても変えられない、変える動機を持つことが出来ておらず、新しい仕組み、ビジネスのあり方が必要であると気づいた。
  • 松井さんのように自分の得意や趣味を生かしながらSDGsに迫っていく展開が現代的であり時代を担う小中高校生にもどう動き出せばよいかが伝わりやすいものだと思います。
  • 若者も何かのきっかけがあれば、松井さんのように行動される方がいらっしゃるのだから、そのような体験機会を周囲の大人がもう少しつくってあげることも必要なのかなと思いました。
  • 海ゴミの問題と観光を結びつけ、教育旅行にするデザイン、現地の課題を学びに転換するというアイディアが他の多くの地域でも活かせると思った。
  • 対馬に漂流ゴミが集まるならば、徹底的に回収し処理して欲しいと思う。今は、島外の学生たちの学びの場になっているが、島民自ら毎月でも海岸ゴミ清掃を実施しても良いと思う。処理にはお金がかかるけど、マイクロプラスチックになると回収できないので、今、先行投資で、国はもっとお金をかけて頂きたい。

5.まとめ 

今回のセミナーは地域の資源を活かしながら自立・循環型の地域を形成するという、対馬型のローカルSDGsの推進を後押しする内容となったと考えられます。

松井さんからは対馬の若者代表として、今後対馬でどのような活動をしていきたいかということを話していただきました。対馬で暮らすことで海ごみの問題だけでなく、多くの気づき、学びが得られています。そのため、島外から来ていただいた方に自らが覚えた驚きや発見、対馬の課題に加えて、対馬の魅力を存分に発信していきたいと述べていただきました。

堅達さんは、世の中を変えていくパワーの源は「当事者」であるとの若者の意識であり、世界中の若者がSNS等を活用して声を上げ、大人を動かしていけることを認識し、積極的に活動することが期待されると再度強調されました。松井さんをはじめとする対馬の若者が対馬の魅力を発信し、同時に対馬を様々な問題解決の拠点(学びを深め、実践していく場)にするために頑張ってほしいというエールが送られました。

地元メディアの取材が入るなど本セミナーへの関心は高く、コロナ禍のため会場参加者の制限を行わざるを得なかったのですが、会場において直接講師のお話を聞きたいという参加希望者も多くおられました。ウェビナー参加者も多く、紹介しきれないほどの質問が殺到するなど、本問題への関心の高さがうかがえました。

(ESD-J理事 阿部 治)