日 時: | 2022年1月23日(日)13:00~15:00 |
会 場: | 京都市右京区京北周山町下寺田11 元京北第一小内 京都里山SDGsラボ |
参加者: | 参加者総数 86名 (内訳)一般参加者数合計82名(会場参加者10名、オンライン参加者72名) 司会1名、講師1名、関係案内人2名 |
講 師: | 浅利 美鈴 さん(京都大学 地球環境学堂 准教授) |
関係案内人: | 太田 航平 さん(NPO法人地域環境デザイン研究所ecotone 代表理事、一般社団法人祇園祭ごみゼロ大作戦 理事長)、安藤 悠太さん(京都大学 工学研究科 博士後期課程、エコ~るど京大メンバー) |
司 会: | 下村 委津子さん(認定NPO法人環境市民 副代表理事) |
![]() 会場の外観、会場の様子 |
元京北第一小学校が、2050年のカーボンニュートラル社会を見据えた創造や変革をおこす場所として、新しい働き方や暮らし方ができる場所として生まれ変わりました。「ことす」は、右京区京北地域の豊かな自然環境をいかしたテレワークやワーケーションの拠点となる「テレワークエリア」(校舎南側)と、木の文化の発信や食,健康等をキーワードに様々な共創や地域との交流が生まれる「クリエイティブエリア」(校舎北側)で構成される交流拠点です。多くの人々が交流し、地域を盛り上げていく拠点となることを目指しています。 |
1.概要
京都市の中でも里山に位置する京都里山SDGsラボを会場として開催しました。長年にわたりパートナーシップで取り組まれてきた「ごみ削減」に、どのような人々が関わり、どのように広がり深まってきたのか、その根本となる考え方の講演に加え、具体的な実践事例の紹介がありました。また、講師と関係案内人二人が、それぞれの立場から経験したことをもとに、見えてきた課題や、今後、どのようにして活動に関わる人を増やしていくのかなど、質疑応答とともに今後の展開についても話し合いました。
2.関係案内人・講師の報告内容
(1)講師: 浅利 美鈴さん
初めに京都大学名誉教授でありハイムーンというペンネームの漫画家でもある高月 紘氏の「元栓を閉めた方が早道じゃないのか?」という漫画とともに、大量生産・大量リサイクルに陥っている私たちの社会の根源的な問題への指摘がありました。広がる格差はごみ削減への関心と行動にも現れており、意識の高い市民とあまり関心が高くない層とのギャップが問題解決が進まない要因であることや、無関心層へのアプローチが課題であること、そのギャップを埋めるための取り組みの必要性について言及しました。その一つの取り組みとして、「机上の研究だけでなく、人の流れに飛び込もう」と、各地で環境活動を引っ張るリーダー育成を目的として実施している「3R・低炭素社会検定」などを紹介しました。今後は中山間地域である京北地域を舞台に、ローカルSDGs=地域循環共生圏の考え方を用いて、持続可能な脱炭素型の廃棄物処理システムのモデル研究と実証など、さまざまに展開していきたいと結びました。
(2)関係案内人:太田 航平さん
NPO法人地域環境デザイン研究所econoteが2014年から行っている活動の「パートナーシップで育む京都のごみ削減活動 祇園祭ごみゼロ大作戦」は、祇園祭で排出される使い捨ての飲料・飲食容器類などのごみを4割減らすことに成功しました。祇園祭で発生するごみは、社会的な環境負荷も大きかったのですが、経済的にも人的労働力の面からも地域の大きな負担となっていました。調査の結果、実は排出されていたごみの7割は近隣の店舗から出ていたことがわかり、発生したごみの管理ができていないことにより散乱ごみとなっているということが明らかになりました。その状況を変えるためには、地域全体で連携してごみ減量に取り組まなければならないと提案し、周りの理解と共感を得ながらリユース食器の導入を実現していきました。今では、地元住民、事業者、露天商、観光客、行政、京都市民などがそれぞれの立場で参画しています。祇園祭ごみゼロ大作戦のボランティアは約2200人/回で全国各地から参加しています。今では、ボランティアとして参加した人たちが地元へ戻った後、その地域のごみ減量活動のリーダーとなり同様の運動が広がっていっています。
(3)関係案内人:安藤 悠太さん
環境問題には関心がなかったものの、【持続可能な社会に向けた「働き方」】というテーマに興味を持って「エコーるど京大」[1]に参加したのがその後の活動のきっかけとなりました。自分自身が関心のなかった層だった経験から、異なる層を引き込む手法として、環境と他の分野・テーマを結びつけることが有効であるとの紹介がありました。具体的な活動としては、1日1人ずつ環境に関するメッセージをフェイスブックで発信する「1日1エコ/ぬか漬けチャレンジ」をエコーるど京大で実施。「ぬか漬け」は1日1回必ず天地返しをしないといけないことから、積み重ねの大切さを表すためにつけられた名前で、有名人も参加するなどサステナビリティの象徴としてムーブメントになりました。頭の中だけで考えて現場を見ないと情報と経験不足に陥り、熱い思いだけで考えもせずにただ行動するというのも計画性のなさでダメだということ、研究と実践の両立があってこその成功であると重要なポイントが伝えられました。
[1] 「エコ〜るど京大」は、全員参加型でサステイナブルキャンパス実現を目指す京都大学の学生・教職員を中心とした団体。環境問題や持続可能性・SDGsについて、そもそもから考え、対話し、実践すべく活動している。
3.参加者のコメント・質疑
(1)会場参加者からの質問
(2)ウェビナー参加者からの質問
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4.アンケート結果概要
事後に実施したアンケートでは、参加者から以下のような感想が寄せられました。
- 浅利さんの地域全体を考える包括的な視点、太田さんの話術と取組の情熱が大変印象的でした。
- 高月先生のイラストを解説され、わかりやすかったです。蛇口の例えと階段が特に印象に残りました。誰かに伝えたい気持ちになりました。
- 高月先生の蛇口で消費とリサイクルを風刺した漫画を使った浅利先生の説明で、”蛇口を閉めないように努力している存在もいる”という解説。その存在からもSDGsも消費の道具にされてしまうのではないかと懸念もありますが、SDGsの広がりは無視できないと思うので、行動変容に期待します。
- SDGsの目標に文化が入っていないことが前々から気になっていました。講師のみなさんも文化が入ってないことを気にされていて、環境活動を通じて日本の文化を伝えるワークショップを、展開していきたいと思いました。
- 太田さんの発表内容で地域の伝統的なお祭りの運営とゴミ問題を結びつけた活動を紹介されたが、参加する人は祇園祭の魅力をきっかけに関わる人が多いということで、そのような関わり方が参考になると思いました。
- 県外からの参加で、京都は少し特別な地域だから、という思いがありましたが、他の地域の参考になるような話がたくさん伺えました。他世代との交流の中から気づきが生まれるという話は、ゴミの捨て方の事例で本当によくわかり、印象的でした。
- プラスチックの優れた特性を生かしてという言葉にほっとしました。プラを仇のように言う人の言葉に反発を感じています。良さを生かしてどう付き合っていくかを考えたいと思います。
- 若い世代が教育の中で環境問題に取り組んでいること、学生が積極的に参加していることが印象的でした。
- 若い人たちは、すでに教育の中でSDGsの基本的なことを学んできているので、地域課題を考える時に関わってもらえるととても心強い存在になると思いました。
- 若い人たちの関心を知ることができました。年寄世代の責任を痛感しています。
- 1日1エコ、ぬか漬けもSDGsのことにつながると聞き、まだまだ身近にすべきことがたくさんあると気づきました。
- ゴミ問題だけを考えることはできなくて、SDGsのいろんな課題が相互作用していることがわかりました。
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5.まとめ
環境活動だけでなく、地域の「こと」に関わりたいと思う人、一緒に取り組みを進めてくれる人をどうやって見つければいいのかという話をよく聞きます。今回のセミナーでは、その答えの一つとなる大切な発想が示唆されました。「個人の関心をもとに将来も考えて巻き込む。その活動によってその人が得られるものや、その活動に自分が参加する意義を持たせる」「自分の好きなこと、モノは地域にある」「共通の体験によって討論・考えが芽生える」。どの言葉もこれからのローカルSDGs人材育成にとっての大きなヒントとなりました。
最後にこの報告をまとめるにあたり、寺田雄飛さん(神戸大学2年生)にご協力をいただきましたことを感謝申し上げます。
(ESD-J理事 下村 委津子)