令和3年度ローカルSDGs人材育成地方セミナー
【長野県飯田市】
「若者と考える持続可能な遠山郷の未来」報告

日   時: 2022年1月30日(日)14:00~16:00
会   場: 長野県飯田市南信濃和田2596−3
南信濃地域交流センター
参加者: 参加者総数 108名
(内訳)一般参加者数合計103名(会場参加者18名、オンライン参加者85名)
司会1名、講師1名、関係案内人3名
講   師: 田開 寛太郎さん(松本大学 総合経営学部 観光ホスピタリティ学科・専任講師)
関係案内人: 山口 雄大さん(上村地区)、鈴木 志保さん(南信濃地区)、水戸 幸恵さん(南信濃地区)
司   会: 小玉 敏也さん(麻布大学、特定非営利活動法人持続可能な開発のための教育推進会議理事)
講師 田開 寛太郎さん

講師 田開寛太郎さん

関係案内人 山口雄大さん

関係案内人 山口雄大さん

関係案内人 鈴木志保さん

関係案内人 鈴木志保さん

関係案内人 水戸幸恵さん

関係案内人水戸幸恵さん

司会 小玉敏也さん

司会 小玉敏也さん

南信濃地域交流センターは、地区の住民を結ぶ施設であり、公民館活動を軸とした地域住民によるまちづくりの中心にもなっている。

 1.概要

本セミナーの冒頭に、司会者から本日の趣旨説明と飯田市遠山郷(上村地区・南信濃地区)の紹介を、映像を交えながら行いました。そこで、地域住民が、南アルプスの豊かな自然の恵みに根ざした文化をどのように継承・発展させ、過疎化・高齢化という課題にどのように取り組んできたかという点について、参加者とともに考える場が提供されました。

まず、講師からは、マイクロツーリズム、スタディツーリズム等の新たな観光の視点から地域を活性化できる可能性について報告がありました。次に3人の関係案内人から、若者による伝統文化の継承、エネルギーの地産地消、合意形成を重視したまちづくり、関係人口を増やすゲストハウスといった視点から、それぞれの取組の報告がありました。

それらの報告後は、20代の会場参加者2人から、若者が地域に残って暮らしていく意義や、地域外の人と交流し学ぶことの重要性に関わる発言がありました。ウェビナー参加者からは、遠山郷の地域づくりの具体例や関わり方等に関する質問があり、関係案内人が回答しました。

2.関係案内人・講師の報告内容

(1)講師:田開 寛太郎さん

「若者と考える持続可能な遠山郷の未来」と題して、観光の視点から講演されました。まず、新型コロナ問題による観光のあり方の変化を踏まえ、現地を直接訪問せずに各種デバイスを活用しながら疑似体験ができるバーチャルツーリズムと、自宅から約1時間圏内で行ける地域の観光を意味するマイクロツーリズムの事例が紹介されました。それは、従来型のリアルな観光と結びつけて行われれば新たな付加価値を生み出し、地域の価値の再発見や地域経済の活性化につながる可能性があると指摘されました。

講師が遠山郷で取り組んできたのは、2018年から現在まで継続している飯田市街地の高校生と遠山郷の地域の人達、そして地域外の大学生を結んで行われた持続可能な地域の担い手を育てる「遠山郷エコ・ジオパーク・フィールドスタディ」です。このスタディツーリズムでは、高校生が遠山郷の地域行事に参加したり、大学生と交流することで進路について考えたり、大きな刺激を受けたと思われます。また、都市部に暮らしてきた大学生には、遠山郷の魅力や課題を知れただけでなく、コロナ禍でのワーケーション(遠山郷でオンライン授業を受ける)の実行にもつながりました。そして、遠山郷の参加者にも、地域のことを自らが語ることによって、その魅力を再認識できたこと、語り継ぐべき記憶を若い世代に継承できたことなどが報告されました。

今後の遠山郷の持続可能性を観光という視点から考える時、特定テーマに強い関心を持つSTI客(Special Interest Tourist)に焦点を当てて、地域の誇りを守ることで観光地としての利用価値を高めることが重要であると提起されました。

(2)関係案内人:山口 雄大さん(上村地区:タクシー会社経営)

まず自己紹介と上村地区の概要を説明した後、伝統文化である霜月祭りについて紹介しました。昭和54年に国の重要無形民俗文化財と指定された霜月祭りは、遠山郷の人達にとってはとても大切な行事です。私は、子どもの頃から大人の見よう見まねで舞い続け、舞うたびに楽しさや喜びが湧き上がっています。今は、小中学生に舞の所作や笛などを教えていますが、教えていくうちにその奥深さや難しさを日々感じます。

平成30年度から上村青年会議所に若者が集まり、自分達に何ができそうか話し合ってきましたが、そこでもやっぱり話題は霜月祭りです。若い世代にとっても、霜月祭りは身近で生活の一部です。霜月祭りを自分たちが保存し継承していくことが大事であるので、「今やりたいことと、今やるべきこと」を重ねながら取り組んでいる最中です。実際の活動としては、地区の文化祭や高齢者福祉施設などで舞を披露したり、小学校に行って横笛の指導をしたりしています。

上村を持続していくためには、住んでいる人達が元気でなければいけません。また、地区外に出て行ってしまった人達に戻ってきてもらうために、今の上村を変える何かが欲しいと思っていました。その時に出会ったのが上村の川を使った小水力発電事業です。かみむら小水力株式会社は、一級河川の小沢川に、環境に負荷を与えないように配慮した発電所を造る予定です。今、この売電収益を原資として、地区の女性たちが「かみむら御膳」という食文化の地域振興プロジェクトを進めています。これは、4地区で受け継がれてきた伝統食を使ったお弁当を生産していくというものです。

(3)関係案内人:鈴木 志保さん(南信濃地区:和田宿にぎやかし隊・スズキ肉店経営)

2008年に、地域の人達や和田小の校長先生と和田宿にぎやかし隊をつくりました。これは、同じ年に立教大学ESD研究所の講演会に参加したことがきっかけでした。当時は、地域の過疎高齢化や学校の児童数減少が話題になり始めた時期でしたが、講師が「小規模の学校こそ可能性がある」「学校支援を通じて持続可能なまちづくりをしていこう」との話を聞いて、すぐに地域で声をかけてにぎやかし隊をつくったのです。

これまで、色々な活動をしてきました。例えば、学校の先生を招いた寺子屋、学校と地域の協働ICT事業、住民対象の学習会などです。中でも、年に何回か開催する街道縁日では、南信濃地区だけでなく上村地区からも人が集まり、大勢の人でにぎわっています。飯田市街の高校生も、縁日の準備の手伝いに来て、一緒に盛り上げてくれたこともあります。

2019年には、南信濃1500委員会を立ち上げました。この名前には、子どもの数の減少に悩む小中学校への支援を通じて、今の人口を1500人に増やしたいという願いがこもっています。公民館を会場として、保育園長、小中学校長、まちづくり委員会等の代表が集まって、持続可能な南信濃地区のまちづくりについて話し合っています。その成果の一つが、長野県移住モデル地区の認定を受けたことです。和田小学校に親子留学制度を導入して、次年度から地域外の子どもが入学する予定です。

(4)関係案内人:水戸 幸恵さん(南信濃地区:ゲストハウス太陽堂経営)

前職は首都圏にあるICT関連の企業に勤務していましたが、2017年に遠山郷に地域おこし協力隊として移住し、2019年からゲストハウス太陽堂を開業しました。開業まで、地域の人に古民家の改修作業を手伝ってもらったり、壁塗りワークショップを開いたり、多くの人達にお世話になりました。オープニングでは、私達のために盛大なイベントを開催していただいたり、今思い出しても幸せなひとときでした。これまで、計872名の人にゲストハウス太陽堂に宿泊していただきました。旅行客だけでなく、大学生がワーケーションで使用したこともあります。ここは地域に住んでいる人達が気軽に立ち寄れる場所でもあるので、日中や夜間にカフェやBarを開いて、コロナ前はにぎやかな日もありました。太陽堂は、「遠山郷の勝手口」だと思っていて、いつも開いていて誰かがいる場所、旅人も地域の人も色々な人が出入りする場所でありたいと思っています。その意味で、太陽堂は「地域の余白」になっていると思っています。

3人の関係案内人の話に対し、講師の田開さんがSDGsの観点からコメントされました。まずSDGsとは、自分自身が「他者とともに未来を考えること」であり、組織内・団体間で多様な人達とパートナーシップで取り組むことであると説明されました。関係案内人のお話を踏まえれば、会場内に掲示された「遠山家族」という言葉に象徴されるように、すでに地域内では十分にパートナーシップが取れていると評価されました。全国の中山間地では、「人口減少」→「学校統廃合」→「地域外進学」→「郷土愛の低下」といった負の連鎖が起こって地域の弱体化が始まっています。遠山郷の様々な取り組みは、それを逆手にとって、SDGs 17目標をまちづくりの取り組みの指針にして実質化する強さがあると指摘されました。

3.参加者のコメント・質疑

(1)会場参加者からのコメント
  • この遠山郷で、地元の若者が集うシェアハウスを運営してきました。現在、遠山郷出身の若者が少しずつ戻ってきており、自然体験活動でビジネスを始めた人、首都圏の会社に席を置きながらもテレワークでUターンしてきた人、季節ごとの遊びをしたくて戻ってきた人など、本当に多様な若者が増え始めています。私は、これからこの地域で結婚して住んでいくことになりましたが、色々な人が頑張っているお話を聞いてとても励まされました。
  • 私は高校生の時に、田開先生から紹介があったスタディツアーに参加しました。はじめは地域を知ることにそれほど関心はなかったのですが、そのツアーに参加していた高校生や大学生と交流して、とても刺激を受けました。山口さんの話を聞いて、上村の人口が急激に減っていることに驚きました。このセミナーに参加して、それを初めて実感することができてよかったです。このような状況の中で、今年から「自然と遊ぼうプロジェクト」を始め、空いている農地に新しい作物を育てる活動をして、微力ながら遠山郷のまちづくりに貢献しています。このセミナーを見て関心を持った人は、ぜひ遠山郷を訪れてください
(2)ウェビナー参加者からの質問
Q1.古民家を改修する時に、どうしてたくさんの荷物が残っていたのでしょうか。そのゴミをどう処分しましたか。
A1.エコの視点からの質問でしょうか。持ち主がご病気になられて、片付ける時間もなかったのでしょう。食品等は廃棄しましたが、使える物は太陽堂で使用したり、文房具等は学校にも寄付をしました。ゴミはまだ大量に倉庫に残っており、消費できないものはいつかガレージセールで売ることを考えています。
Q2.霜月祭は、男女平等に参加できるのでしょうか。
A2.全地区共通ですが、女性は神事には参加できません。周りで囃したり、笛を吹くのはできるので、子どもや女性は、そのような形で参加してもらっています。
Q3.皆さんの地域を盛り上げようとする活力やパワーは素晴らしいです。そのモチベーションはなんでしょうか。
A3.

  • 幼い頃の遠山郷は、子どもから大人までみんな元気でした。取り組みに関わるきっかけは、自分がタクシー会社を始めたことで、そこで上村で生きていく決意ができました。自分が取り組むことで、いずれ自分にも何かが返ってくるし、村を出て行った同級生や若者が帰ってきやすいようにしたいというのが活動の原動力になっています。
  • 遠山郷に住んで20年になります。初めてここを訪れた時に、人の明るさと温かさに感激しました。ここは、人間関係がとても濃い地域で、お互いが遠い親戚のような関係です。ですから、知っている人が住んでいる地域を良くしていきたいという思いが原動力になっています。
  • ゲストハウスをやりたくて遠山郷に移住したので、地域が良くならなければいいゲストハウスにもならないという考えでした。首都圏で育った自分には、この地域で経験することが、どれも楽しくて新鮮です。勤務していた企業では、チームで働く機会が多かったのですが、ここでもまちの人達とチームでの仕事をやっている感覚で、ただただ楽しくて、それが原動力になっています。
Q4.今回のセミナーで、遠山郷の魅力がよく伝わってきました。今後、よそ者がどのように遠山郷に関わっていけば良いのでしょうか。まずは、訪問することでしょうか?
A4.

  • その様な方のために、太陽堂があります。ぜひ宿泊して、ディープな遠山郷を体験してください。
  • その様な方のために、山の肉屋があります。宿泊された際には、肉を提供しますので、いらっしゃったら交流しましょう。私達は、SNSやホームページで遠山郷のことを随時発信しています。そちらもご覧になって関心を持ってください。
  • その様な方のために、タクシー会社があります。どこでも案内できますので、観光は私に任せてください。

4.南信濃まちづくり委員会近藤力夫さんのコメント

本日のセミナーに参加して、遠山郷の様々な人たちが、パートナーシップで一緒に活動していることを改めて痛感しました。ここまで、様々な機会に学びが積み重ねられてきましたが、次はいよいよ実践の段階かなと思います。たとえば、親子留学が始まりましたが、移住者の住宅が足りていないというような壁に直面しています。このような状況の中で、南信濃まちづくり委員会としては、活動を支える財源を確保しなければいけないと思いました。また、遠山郷には、5年後に三遠南信道が開通し、長野県の南の玄関口になる予定です。そうすると、静岡県からの人の流れが増えて、まちの状況も変わってくるでしょう。若い世代の人達には、そのようなことも見越して活動を進めてもらいたいです。

5.アンケート結果概要

事後に実施したアンケートでは、参加者から以下のような感想が寄せられました。

  • 関係案内人3人の方のお話、それぞれが大変興味深かったです。それぞれ、遠山で育った方もいれば、外から来られた方もいらっしゃいますが、「地域をよくしたい」「子供たちに何ができるか」そういった視点を持って活動されておられることに感服いたしました。
  • 山口雄太君の、地域に生まれた者として、地域を思う気持ちの強さ、地域の未来を考え取り組む姿は印象的だった。小水力発電が軌道に乗って、地域に還元し、良いサイクルを作っていくことを期待しています。
  • 登壇者だけでなく、フロアの方々も地域のことを真剣に考えていて、楽しみながら活動しているのが伝わってよかったです。田開先生のまとめもわかりやすかったです。
  • 人口が減ってきている山間部のイメージであったけれど、現在住んでいる方々が元気で、色々な取り組みをしているところに人が集まって楽しそうにしていることがとても印象的でした。
  • 地域を存続させていくというその土地に住む方の思い、覚悟と温かい人のつながりを感じました。
  • 外からの移住者と地元の若い世代の協働が印象的でした。
  • よそ者の視点でその地域の素晴らしいところを見つけ、発信し、新たな人を惹きつけると言うことができるということがわかりました。
  • 地域の内外から若い人たちが、遠山郷の魅力的な自然の中での『なつかしい郷づくり』活動に賛同して、集まって来きていることをうらやましく思いました。
  • 皆さん暮らしや仕事と地域づくりの活動がリンクしており、楽しみながら進めているのが素敵だと思いました。暮らしながら生計を立てることができる人が増えれば、遠山郷はより賑やかになると思いました。
  • 生まれも育ちも飯田ですが、1時間離れた地域のことを知る機会がなかったです。イベントがあったり温泉やゲストハウスがあることが分かったので、散歩に行ってみたいなぁと思いました。
  • 遠山郷は、いつも開いていて、誰かがいて、いろいろな人が気軽に出入りできるような居場所があるが、私たちの活動場所には、それに欠けていることに気づかされました。
  • 人口1,200人と多くない地域でも、ポジティブに考えることで可能性が無限大であることに気付きました。視野を広くしていきたいと思います。
  • 若い世代の意欲的な取組みを、とても頼もしく思います。一方で、SDGsには「ジェンダー平等の実現」も含まれています。それを推進するとしていながら、「祭りの舞いは男のみ」という古い女人禁制の考え方に手をつけないとするなら、やはり矛盾を感じてしまいます。こちらも、大いに議論が進むことが期待されます。
  • 維持しようとする力、変えようとする力、様々な考えを持った人々が、地域の良い所や課題を共有し、大きな方向性を同じくして、それぞれの活動を行える地域にすることが大切だと感じました。また、地域の人は外から入ってきた人にオープンであり、外から入って来た人は地域にリスペクトを持つ、そんな関係性がこれからの移住定住には大切だと感じました

6.まとめ

現在、全国の中山間地・島嶼部では、過疎化・高齢化の問題が深刻化しています。本日の講師と関係案内人からは、これらの問題を解決するために、とても重要な問題提起があったと思います。例えば、新しい観光のあり方、若者による伝統文化の継承、エネルギーの地産地消、合意形成を重視したまちづくり、関係人口を増やすゲストハウスの役割といった視点です。これらは、これから持続可能なまちづくりの活動を始めるにあたって、参照されるべき大切な視点であり、ヒントになるのではないでしょうか。遠山郷は、SDGsの視点を指針として、多様な取り組みがつながり合い、可視化されているように思います。他の地域でも多様な取り組みの参考になれば幸いです。

(ESD-J理事 小玉 敏也)