活動内容

人材育成

活動報告 オンラインセミナー(関東)ヤマネ・いきもの研究所の2023年をふりかえる

ESDと生物多様性「雑談トーク:ヤマネ・いきもの研究所の2023年をふりかえる」

主催:ESD-J
開催:2023年12月26日(土)19:30-21:00
🔹司会:鳥屋尾 健ESD-J理事
🔹ゲスト: 湊 秋作さん・饗場 葉留果さん(ヤマネ・いきもの研究所)
🔹参加者:23名(司会1名、ゲスト2名、事務局3名含む)

🕒プログラム🕒
🔸ゲスト紹介と趣旨説明
🔸ゲストお二人へのインタビュー(この一年の振り返り)
🔸後半は小グループに分かれてグループトーク
🔸全体共有、クロージング

人と自然の共生の道を長年模索し続けている、ヤマネ・いきもの研究所の研究者お二人に同研究所の活動をご紹介頂き、ヤマネ保護活動の経緯や、昨今の生物多様性関連の動きを振り返っていただきました。その後グループに分かれ、講師のお二人のお話を受けての感想や人と自然の関係を切り口に、関心のある環境関連の事項について等、自由に意見交換しました。
司会の鳥屋尾理事より、本セミナーの趣旨説明がされました。

司会:ESD-J理事 鳥屋尾さん

饗場 葉留果(あいば はるか)さんより日本の天然記念物ヤマネについて、ヤマネ・いきもの研究所について、ヤマネの研究について等、ご説明いただきました。ヤマネの調査は、山梨県、隠岐の島、そして紀伊半島(古座川町)で実施されました。調査は、定点カメラでヤマネの存在を確認したり、環境DNAについて調べることで、糞から食性を確認したりしています。加えて里山いきもの調査を定期的、継続的に行っており、虫、水生生物、鳥など、ヤマネ以外の生きものについても調査することで、変化等を観察しています。生きもの調査によって、それぞれの生きものには、どんな環境が大切かが見えてくるそうです。

饗場 葉留果さん

湊 秋作さんより、田んぼX水路Xため池X森=里山であり、まず里山を知ることによって、いきものを守るという活動に繋げていることが説明されました。里山が*OECMになるための調査になれば良いなと思いながら様々な調査活動されているそうです。
調査の例として、幅5.1mの道路(富士スバルライン)による生息地の分断が生物集団に与える影響について説明されました。たった5mの道路ですが、道路の両側でアカネズミやヒメネズミ等のDNAを調査したところ、ヒメネズミには、DNAに大きな影響があることが分かったそうです。そのため、山梨県知事へ意見書を提出し、アニマルパスウェイ建設と、ヤマネの基礎調査の提案をしたそうです。そして現在、山梨県の道路公社と調査を実施しています。このように道路の分断の影響は富士山周辺のみならず他の場所でもみられるそうです。

*OECMとは、Other effective area-based conservation measures(その他の効果的な地域をベースとする手段)の頭文字をとったもので、国立公園などの保護地区ではない地域のうち、生物多様性を効果的にかつ長期的に保全しうる地域のことをいいます。既存の保護地区以外の場所、OECMにおいて生きものの保護活動が必要ということで、里山が生物多様性保全のOECMの候補となります。

WWF「地球のこと」秋号 特集記事:「樹上の上で暮らす動物」でヤマネの紹介

続いて、アニマルパスウェイについて説明されました。1998年にヤマネブリッジという動物の歩道橋が出来ましたが、費用が2000万円もかかったので、その後は建設会社の方々とより安価で質の高いアニマルパスウェイの開発を行いました。そして、金属の3角形のアニマルパスウェイが2007年に出来ました。2021年には、ミエノワアニマルパスウェイが建設されました。分断された場所に木の苗を植えましたが、それが育つまでの間に生きものが行き来するためのパスウェイが設置されました。木の苗は小学生が育てました。このように教育と絡めた保護活動を展開しています。この活動は、SDGs、町づくり、経済とも深く関わっています。
ミエノワアニマルパスウェイは、従来型のパスウェイとは異なり、せいろを利用した丸形の木が所々にはめ込んであります。木が育つまでの一時的な利用となるために自然に返る素材で作成されました。

●参加者の質問(抜粋):
❓「アニマルパスウェイ」は道路上の効果的な設置地点とあまりヤマネが利用してくれない設置地点がありますか?もし、設置地点の「条件」や長年の勘から実感されている「効果的な地点の共通点」など、お話しいただけますと嬉しいです。
❓アニマルパスウェイはヤマネ以外も利用しますか。

●回答:アニマルパスウェイはリス、ネズミなども利用します。アニマルパスウェイの設置の際には、通したい動物の生態調査を行います。ヤマネを通す場合には、道路の端と端にヤマネが使える環境(住処や食べ物)があるかを調べます。ヤマネの冬眠場所を探し当てて、そこに設置した際には、設置から僅か7時間でヤマネが通ったという例があります。動物によって、その条件は異なります。アニマルパスウェイの設計も、通したい動物に合わせて大きさ等を決めています。

●アニマルパスウェイの建設に携わってきたOさんのコメント:
当時、ゼネコンは自然破壊など社会的に批判されることが多かったですが、アニマルパスウェイの建設・自然保護の活動に携わったことで、自分の仕事に誇りを持てるようになったというような社員のコメントがありました。また、アニマルパスウェイを三角形に設計したのは、単純で安定するという理由と、ヤマネやリスの天敵である鳥が入りにくいという理由からです。

続いて湊さんから、これまで実践されてきた環境保全と生物多様性教育についてご説明頂きました。1978年頃から身近な環境―田んぼや湿地を守る活動を子どもたち、教員、地域の方々と行ってきました。
総合的科学調査 X 保護運動 X 環境教育 =保全へつながります。

湊 秋作さん

2023年に*「ネイチャーポジティブ」宣言が出され、自然再興のために上述した、OECMが重要となっています。そのために、①企業緑地、②里山、③トンネル坑口等を陸保護域として提案しています。ヤマネ・いきもの研究所では、小学生~高校生、市民、若い人、企業人等へのSDGs・生物多様性教育を実施しています。担う人がいなければ、目標の達成は不可能であるために、「みんなの参画」と「企業の参画」が日本を変えるためには特に重要であると考えています。いきもの調査は、ヤマネ・いきもの研究所の活動である一方、地域の方々と一緒に実施しており、地域への学びの機会ともなっています。

*「ネイチャーポジティブ(自然再興)」とは、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることを意味します。2030年までに「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を実現することが、2050年ビジョンの達成に向けた短期目標です。外部リンク

次に4グループに分かれ、自己紹介、お二人のお話を受けて印象に残ったことなど自由に話し合いました。各グループの話し合いの要旨は以下の通りです。

🪑グループ①では、科学的な知見の大切さ、哺乳類は目に見えますが、もっと小さないきものの保全について、気候危機との関係性についてなどが話されました。

🪑グループ②では、湊さん、饗場さんのお話から協働の実践の素晴らしさ、そこに多くの分野・アクターを巻き込んでいることが更に素晴らしいこと。人材育成の大切さ、身近な自然を守ることの大切さ、そこに居る地元の人が関わる仕組みづくりの重要性、知ること(調査)の重要性を実感できたこと。関心を持つためのきっかけづくりの大切さと、それをサポートする人、仕組みの構築が重要であること等が話されました。

🪑グループ③では、科学的な調査を実施することが基本であり、また、仲間をつくることの大切さ、行政に意見書を提出することの大切さなどについて話されました。

🪑グループ④では、地域と学校が2つのキーワードとして挙りました。地域が繋がることが重要ですが、そのハブになるところが必要で、市民センターや学校がその役割を担えるということ等が話されました。

最後にゲストのお二人から感想を頂きました。本セミナーでの出会いを大切に、今後も何らかの形でコラボレーションした活動が実施出来たら良いですねというコメントで締めくくられました。

ご参加頂きました皆様、どうも有り難うございました!

🎨 ヤマネ・いきもの研究所
🎨 KEEP協会


📋アンケート結果📋
✒️アンケート回答者:12名
1.活動地域
🌐北海道1
🌐関東地方1
🌐千葉県2
🌐山梨県1
🌐三重県1
🌐京都市1
🌐岡山県1
🌐北九州市1
🌐日本全国3
🌐特定の地域を対象にしていない1

2.セミナーに参加されての気づきや学びをお聞かせください
💬生物多様性に係る長年の経験を聞かせていただいて感謝しています。
💬ヤマネの棲息域も日本国内の温暖化によって北上するなど現在の棲息域を強制的に変えざるを得ない環境におかれる可能性が高いのではないでしょうか。今年8月1日に東大等が合同で発表した非市場価値(生物多様性や人間の健康など)を含む地球温暖化対応の費用試算を参考に、早急に地球温暖化抑制と生物多様性保全と私たちの暮らし方(行動変容前提)の最善の解決策をバックキャストで協議する場づくりが各地で進められることが、不可避だと考えます。
💬お二人のお話を聞くことができて、とてもうれしかったです!色んな方と協働していること、みんなでやることを ずーーっとやり続けていらっしゃることが、何より素敵だ!と思いました。また、研究をちゃんと地域や社会に還元することも、ずっと実践されていることも素敵です!!あと「場所を守る&つくると同時に担い手を育成しないと」という言葉がとても心に残りました。自然を守りながら、守るために行動できる人を同時に育てていくことの必要性を改めて思いました。
💬生き物を真ん中にしたたくさんの方の共同の様子に、わくわくと元気をもらいました。自分の身近なところでどんなことができるのか、またアンテナ張りつつ考えて見たいと思いました。今年を締めくくり、新しい年に思いを馳せる良い時間となりました。
💬市民が科学的根拠に基づいて課題に向き合う大切さ。① 里山の意義を更に広報する重要性、② 今回の地域活動を企業に説明している点、③ 「生態系の回復」
💬人工の道路による遺伝子の多様性が影響を受けているのは、衝撃でした。
💬仲間を増やす、データ(調査)、市長に意見書をしつこく提出が重要
💬地道な基礎調査の重要性、継続的に地域の人や多くのアクターを巻き込んでいきもの調査を行う仕組みづくりの重要性などを改めて学びました。担い手づくり(人材育成)に最も力を入れるべきという点には強く共感しました。企業人への教育については、当団体はあまり注力できておらず、取り組みたい分野であるので、その点についても情報収集していきたいです。

以上

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