活動内容

人材育成

【賛助会員インタビュー】
Vol.3 王子ホールディングス様

◆インタビュー対象:

  •  広報IR部 清原 悟様、村松 和人様
  •  王子の森活性化推進部 山本 宏美様
  •  環境管理部 小川 昌士様

◆実施日:2025年4月22日14:00-15:00

◆実施者:鈴木 克徳(ESD-J代表理事)、横田 美保(ESD-J事務局長)

◆王子ホールディングスのサステナビリティ戦略の概要

王子グループは2023年2月、創業150周年を迎えるにあたり2022年に、次の150年を見据えた新たな目指すべき姿を示す「存在意義(パーパス)」を「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」と定義しました。

これまで森林資源をベースにサステナブルな事業を運営してきましたが、人口減少社会であることや記録する紙の需要の減少により、将来を見据えた新たなビジネス展開が必要となりました。そのため、これまで培ってきた森づくり、紙づくりの技術・設備を活かし、サステナブルパッケージ、並びに木質バイオマスビジネスを新たな事業の柱として取り組んでいくこととしました。これらの事業もサステナブルなビジネスモデルであり、事業を進めることでサーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ、カーボンニュートラルといった持続可能な社会の実現にも貢献すると考えています。

※各スライドはクリックすると大きく表示されます

以下、王子グループの主な取り組みについて説明します。

◆森林の機能と価値化

「木を使うものには、木を植える義務がある」(藤原銀次郎1930年代社長)という信念に基づき、100年以上前から山林を取得し、原料となる木を育てる循環型の事業を実施しています。

森林の経営に関しては、生産林と環境保全林(様々な動植物が生息する生物多様性、降雨等による土砂崩れを防ぐ、水の浄化やきれいな水を貯える水源涵養等の能力を持つ)を区別しながら、一体で維持・管理することで森林を健全に育てています。海外では、荒廃した土地を購入し、そこを森林として蘇らせています。自然が再生された森は、生物多様性クレジット、水クレジットを創出する可能性もあるため、その経済的な価値を評価する動きが世界的に進行しています。

海外での植林活動

2024年7月25日、PanPac(ニュージーランド)は、社有林があるタンゴイオ地域において、自治体や環境保全団体と連携し、植樹イベントを開催しました。同イベントにはPanPac工場近隣にあるエスクデール小学校の児童を招待し、参加者全体で約3,000本の在来植物を植樹しました。この植樹活動では、在来植物の生息域を復元・拡大するとともに、河川沿いの緑地帯を延長することにより、涼しい日陰を好む在来魚種などの生息域の拡大も期待されます。

PanPac(ニュージーランド)で実施している植樹活動(自治体、環境団体、地元小学生が参加)
地元小学生と協働の植樹活動 約3,000本の在来植物を植樹

総面積63.5万haの「王子の森」の経済価値を林野庁の「森林の公益的機能の評価額について」という発表の手法に基づき試算した結果は以下の通りです。水源涵養、土砂流出・崩壊防止、生物多様性の保全、大気保全(CO₂吸収)・保健休養等の4つの機能の試算合計が年間で約5,500億円となり、森林を適切に維持・管理することでこれだけの経済価値を生んでいます。今後は、森のフィールド調査に基づき、更に厳密な森林の経済価値の定量化の取組みを進めていきたいと考えています。

この定量化の背景として、自然の価値を企業の財務諸表上に掲載する「自然資本会計」を整備する動きがグローバルに始まっています。つまり、サステナブルな事業を遂行することにより、自然の価値を増幅し、それが更に経済的な価値を創造するという時代に向かって進んでいます。

この流れを受け、当社として、業界・国を超えてグローバルで関係者とともにスタンダードを作ることが重要だと考えています。2022年に、国際的な森林関連企業が集まりInternational Sustainable Forestry Coalition(ISFC)という団体を設立、当社も立上げメンバーとなりました。ISFCでは、「森林と林産物を最大限に活用することで、自然にプラスの影響を与え、持続可能な循環型バイオエコノミー社会を構築できるよう支援する」という使命の達成に向け、加盟企業と協力し、国際会議等で積極的に発言をし、制度作りに貢献していきたいと考えています。

◆グリーンイノベーション ~環境に優しい森を活かした製品の開発~

ICT化の進展で、記録するための紙の需要は近年下がってきています。一方で石油と異なり、森林資源は60年ほどで再生するため、サステナブルな原料であると言えます。そのため、森林資源、並びに既存のインフラをサステナブルパッケージ、木質由来の医薬品、バイオエタノール、バイオマスプラスチックといった新たなビジネスへの活用に取り組んでいます。

◆サステナブルパッケージで脱プラスチック社会へ

特に欧州で利用が進んでいるサステナブルパッケージは、プラスチック包装と比較して、約60%(包材1m3あたり)のCO₂排出量が削減できると試算しました。プラスチック包装は紙と比較して安価に生産できますが、高品質な紙の加工のコストが低減してきていることを鑑みると、脱プラスチック社会への移行を目指すグローバルな潮流に後押しされ、今後益々、サステナブルパッケージは社会に求められていくでしょう。

また健康リスクが問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)を使用した耐油紙(ファーストフード店、ドーナツ店などで使用されている)の代替として、PFAS不使用の耐油紙を開発し、既に上市しています。

さらに、ファーストフード店などの店舗で使用済みの紙カップを回収、原料化して、ペーパータオルとして再生し、それを店舗で活用するというような循環型の取組みを外食3社と協同で実施しています。2025年は60トン/年の回収を想定しています。

PFAS不使用の耐油紙

◆木質バイオマスビジネスで環境に優しく、カーボンニュートラルな世界へ

石油由来燃料、プラスチック等をサステナブルな木質由来に代替する研究も始まっています。サトウキビやトウモロコシなどは可食バイオマスですが、それを非可食の木質バイオマスに置き換える取組みでもあります。この研究では、木材から生分解プラスチック、エタノール、並びに半導体の原料となるバイオマスレジストなど様々な物質の開発に取り組んでいます。

木質バイオマスレジストについて更に説明すると、PFAS等の添加剤が必要ないこと、そして添加剤を使わないために不純物の混入が減少し、その結果として高性能が実現しました。加えて従来の製品は品質保持のために低温で保存しておく必要がありましたが、木質バイオマスレジストは常温保存が可能であり、保存面、設備面でのコストダウンやCO₂削減も見込める製品です。

◆木質由来の医薬品の開発 

これまで活用してこなかった木質成分のヘミセルロースを使って、動物用の医薬品を開発し、販売の準備を進めています。また血液凝固を防ぐヒト用の透析薬ヘパリンの代替品としてのヘミセルロースの研究も進んでいます。ヘパリンには豚等の内臓が使われてきましたが、植物由来とすることで動物愛護の問題を解決し、また宗教的な課題もクリアできるという利点もあります。

◆近年実施している環境教育の取組みについて

コロナ禍前には、社有林を環境教育の現場として活用していましたが、2021年以降は主にオンラインで環境教育を実施しています。オンラインの特長を活かし、森に関することだけでなく、紙のリサイクルに関する内容も盛り込み、小学校4-6年生を対象にプログラムを実施。木の材料を加工や、紙すきの体験も取り入れています。2022年以降、同プログラムに毎年200名以上が参加しました。

紙のリサイクル編 プログラムの様子 間伐材を活用したキーホルダー 紙すきはがき

他の取組みとしては、古紙再生促進センターとの協働で古紙の大切さを伝える出前授業なども実施しています。古紙のリサイクルについて知っていただく場として、工場見学を受け入れており、地域の小学校等に教育の場所として活用されています。そこで森に関する講話なども行っています。

◆割り箸リサイクルの活動

コロナ禍に中断していた割り箸リサイクルの活動再開を24年7月HP上に公表しました。回収した量に応じて、ESD-Jに寄附をしてきましたが、コロナ禍に伴う数年間にわたる中断の影響でコロナ禍後は回収量が減っています。活動を継続していくことで多くの方にこの取組みを知っていただき、協力してくださる教育機関や団体が増えると良いと思っています。

◆北海道の猿払村における王子の森の価値の見える化プロジェクト

北海道の猿払村はイトウという絶滅危惧種の淡水魚の生息地であり、王子ホールディングスでは地域の方々や大学と連携してイトウ保全協議会を立ち上げ、イトウの保護活動を支援してきました。イトウ保全協議会のメンバーが、毎年、猿払村の子どもたちを対象に、森の中のフィールドワークも含めた「経済と森」をテーマとした勉強会を実施しています。加えて大学生を対象としても同じような保全林でのフィールドワークと地域経済について学んでもらう勉強会を実施しており、将来的な移住を促進するような活動も行っています。

北海道大学の研究者と共同で同村において、森の価値を見える化する取組みを進めており、重要な5要素(CO₂、生物多様性、土壌、栄養、水)の価値の可視化を試みています。今後自治体とともに村民の皆様にその取り組みや結果についてお伝えすることや、子どもも対象に含めた自然教育を実施することにより、その地域の自然の価値や魅力の再認識に貢献したいと考えています。また、将来的には、この森の価値の見える化の手法を「王子モデル」として確立し、自然資本会計の基準づくりにも関与していきたいと考えています。

地元小学校の総合学習 イトウ観察 絶滅危惧種IB種に指定されているイトウ イトウの遡上調査

◆参考資料

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