- インタビュー対象:SOMPO環境財団 専務理事 中村 茂樹 様
- 実施日:2025年4月8日(火)10:00-11:00
- 実施者:浅井 孝司(ESD-J副代表理事)、新海 洋子(ESD-J理事)、横田 美保(ESD-J事務局長)
◆SOMPO環境財団の理念・基本方針
昨年度、SOMPOホールディングスは、グループ企業理念である「SOMPOのパーパス」をシンプルに分かりやすく、「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」に再言語化しました。SOMPOグループは、多様な分野の事業を幅広く担っているため、パーパスを踏まえた総合力を提供し、未来を切り拓いていく事業を展開しています。SOMPO環境財団では、企業、市民、NPO/NGO、自治体など多様なセクター・ステークホルダーを繋ぐハブの役割を担い、「木を植える人を育てる」の理念のもと、未来を担う環境人材の育成事業を行っています。理念にESDやSDGsという言葉は使用していませんが、同財団の活動は「ESD(持続可能な開発のための教育)」そのものだと認識しています。
◆事業の根幹と時代のニーズへの適応
SOMPO環境財団は、環境人材育成事業を以下の4つの柱とし、活動を発展させてきました。4事業の根幹は変わっていませんが、時代の変化、課題の変化・深刻化などに適用しながら、創意工夫し、プログラムをブラッシュアップしながら継続していくことが大切だと考えられています。
- CSOラーニング制度
- 市民のための環境公開講座
- 「環境保全プロジェクト助成」
- 「学術研究助成」
前回のインタビュー時からの活動の変化について、以下の2つのプログラムを中心に説明します。
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CSOラーニング制度
CSOラーニング制度※は2000年から実施しており、25周年を迎えました。これまでプログラムに参加したCSOラーニング生は、1,391名です。以前は、関東、関西、愛知、宮城の4地区を対象に行ってきましたが、昨年から新たに九州(福岡)地区を対象に加え、現在は5地区で実施し、2019年は58名の学生を派遣していましたが、2025年は70名の学生を40のCSO団体に派遣する予定です。
CSOラーニング生は、団体でのインターンシップの学びだけではなく、インターンシップ先を横断した小グループを、関心のあるテーマごとにつくり、グループ単位で学生主体のミニプロジェクトを実施する取り組みが新たに始まりました。例えば気候変動の課題に関心を持つグループは大学に提言書を提出したり、生物多様性に関心のあるグループは子どもたちを対象に出前授業を行ったり、エシカル消費をテーマとするグループは、子どもたちを対象にゲームを通じてSDGsを理解する活動を行うなどをしています。
また、2025年11月には、25周年を記念したイベントを計画しています。目的は、CSOラーニング生のネットワークの強化です。イベントを契機にプラットフォームを立ち上げる計画もしています。このプラットフォームは、CSOラーニング修了生間や、多様な関係者と協働してプロジェクトを立ち上げたり、25年間で培った人脈を活用した取組みを生み出したりなど、この間CSOラーニング制度が生み出したものを活用して新たな動きを創出することを目指しています。修了生と現役生のつながりを強化し、例えば、修了生が現役生のキャリアパスを描く際のサポートをすることや修了生がロールモデルになることなどを期待しています。CSOラーニング制度が積み重ねた成果を活用することで、この制度の魅力向上にもつながるのではないかと考えています。
2019年にはインドネシアでCSOラーニング制度(NGOラーニングインターンシッププログラム)をスタートさせました。6期を終え、CSOラーニング生が127名参加し、受け入れ団体も11団体となりました。日本とインドネシアのCSOラーニング生のオンライン交流会を行い、それぞれが取り組んでいる課題を共有し、取組内容について情報交換をし、互いに刺激を与えあっています。インドネシアの修了生の中には環境NPO/NGOや環境省に就職する人もおり、インドネシア政府から高い評価を得ています。CSOラーニング制度のキックオフイベントや修了式にインドネシア政府の局長が参加したり、大阪・関西万博のインドネシアパビリオンで9月に実施される特別週間「地球と生物多様性の未来」でのイベント開催など、インドネシア政府との信頼関係の構築や、本制度への期待も高まっています。
CSOラーニング制度に応募する日本の学生は、環境問題を真剣に捉え、取り組む意識が強くなってきています。しかし、インドネシアと比較すると、インドネシアの応募倍率は約8倍、日本は約2倍です。日本での応募者が少ないので、更なる認知度の向上が必要だと考えています。学生が本事業の参加を検討する期間を延ばし、大学側の協力も得やすくするために応募期間や募集締切の時期を見直しました。今年度は募集を5月下旬まで伸ばし、実施期間を1か月短縮した7ヶ月間にして、短期間で充実した活動を行うことにしました。
※CSOとは市民社会組織、NGO、NPOを包含する概念
![]() 日本におけるインターン先での活動 |
![]() 日本における修了式 |
![]() 日本における成果発表の様子 |
![]() 日本における成果発表の様子 |
![]() インドネシアの活動の様子(ワークキャンプ) |
![]() インドネシアにおける修了式 |
![]() インドネシアにおける成果発表の様子 |
![]() インドネシアにおける成果発表の様子 |
1993年より開始した市民のための環境講座の実施回数は400回を超え、参加者は53,600名以上になりました。コロナ禍前は対面で実施していましたが、コロナ禍を機にオンライン講座に切り替えました。オンライン講座にすることで、海外や日本全国から参加していただけるようになり、録画のアーカイブ視聴が可能になりました。オンラインでの実施が好評でより多くの方に参加していただけるようになりました。
2020年のオンライン開催へ移行後、毎年、13,000名程の応募をいただき、昨今の環境課題への関心の高まりを感じていますが、講座を受講するだけではなく、講座への参加や得た学びを通じて「行動を変容する人」を一人でも増やしていきたいと考えています。
◆社会貢献活動の社内への浸透について
財団として様々な事業を展開してきましたが、課題は社内、社員への周知と啓発、そして参加です。同財団は企業財団です。SOMPOグループ、グループ社員が財産です。しかし、SOMPOグループの多くの社員が財団の社会貢献に繋がる取り組みを認識していません。課題は、SOMPOグループとの連携強化、グループ内での情報発信、海外も含む社内外への情報発信の強化です。
例えば、SOMPOグループの取り組みを紹介する「SOMPOストーリーズ」を活用し、CSOラーニング修了生のインタビュー記事の掲載や、ビジネス特化型のSNS、LinkedInの活用を始めました。社内の人材育成や活動への参加としては、市民のための環境公開講座の受講推奨や、全国各地のボランティア活動や災害支援、メンバーが応援するNPOに寄付する取組みも引き続き実施します。
また、社内外に同財団の活動を広く知っていただくために、社外の表彰制度に積極的に応募をしています。2023年度には市民のための環境公開講座およびインドネシアでの CSOラーニング制度の取り組みが「気候変動アクション環境大臣表彰」(普及・促進部門)を受賞、「持続可能な社会づくり活動表彰 ESD 活動賞」、また2024年度は「新宿区エコワン・グランプリ 環境にやさしい事業者部門 優秀賞」を受賞するなど外部からの評価を受けることができました。
◆ESD-Jとの協働の可能性について
これまで20年以上にわたり、CSOラーニング制度や市民のための環境公開講座などの事業を、試行錯誤しながら継続してきましたが、これからも社会ニーズに合ったプログラムを実施したいと考えています。SOMPO環境財団の役割は「繋ぐためのハブ」です。そして、財産は様々なステークホルダーとこれまでの培ってきたネットワーク、関係性です。
特に、CSOとの関係性は事業パートナーとして非常に重要だと考えています。CSOラーニング制度では、NPOがCSOラーニング生の受け入れ先になっていただくことで、CSOラーニング生にも多くの学びがあり、一方で、NPO も若い世代の新たな感覚やアイデアに触れることができ、また次世代の情報ツールを使った情報発信がされるようにもなり、双方にメリットが生まれます。当財団は、CSOラーニング制度、市民のための環境公開講座、環境保全プロジェクト助成などの事業においても、CSOとタイムリーに意見交換を行い、お互いにWIN-WINになるような良好な関係を築いてきました。このようにして構築してきたCSOとのネットワークを今後も広げていきたいと考えています。
ESD-Jに財団が積み重ねてきたネットワークなどの財産が活用していただけるのであれば提供し、連携して取り組むことも可能だと考えています。積極的な提案を歓迎します。
- SOMPO環境財団:https://www.sompo-ef.org/
- 前回のインタビュー記事:https://www.esd-j.org/report/20200107sompo/