【報告】ESD-J車座トーク2021年度

2021年6月19日(土)15:00~17:00 2021年度のESD-J総会の後、車座トークが開かれました。今回の車座トークは、第1部「ESDをめぐる最新の動向」、第2部「気候変動問題について考える」という2部構成で行われました。講師、事務局を含めて86名の参加が得られ、大変盛況でした。

第1部:ESDをめぐる最新の動向

文部科学省国際統括官付国際戦略企画官 石田善顕さん から、5月17~19日に開催されたユネスコ主催ESD世界会議の結果、ベルリン宣言、第2期ESD国内実施計画の策定と実施等について、お話しいただきました。

  • ESDに関するユネスコ世界会議

・日本とユネスコとの関係、なぜESDを文部科学省が推進するのかと言う背景から始まり、ESDユネスコ世界会議について説明された。会議では、今後のESDの推進に向けて討議がなされた。

・日本は、萩生田大臣が冒頭の閣僚級ラウンドテーブルで我が国の取り組みを紹介する等、会議に大きく貢献した。

・最終日にベルリン宣言を採択した。前文、約束、今後の対応と言う3部構成で、ESDがSDGsの全ての目標達成に貢献することを再確認した。また、各国の全ての教育段階でESDを実施すること、教員の能力構築を進めること等を強調し、さらに、UNESCOの有する資源の活用、気候変動COP26等世界の流れに沿った対応の必要性等が示唆された。なお、会議での議論の中で、環境以外の分野にも目を向けるべきとの指摘も行われた。

・会議からの重要なメッセージは、「今こそ行動の時」というものである。

  • 第2期ESD国内実施計画

・ESDはSDGsの達成に貢献するものであり、そのための社会の担い手を育成する。多様なステークホルダー間のパートナーシップ、情報の交流・共有の促進を重視している。

・様々なステークホルダーの意見を聞くことを重視して計画を策定した。

・5つの優先行動分野別の施策を説明。特に、ユースのエンパワーメントと参加の促進を強調した。

  • その他

・ESD推進のための手引きを作成した旨説明。ポイントは、カリキュラム・デザインを強調したこと、具体的な取り組み事例の記載を充実したこと等である。

・ユネスコスクール推進に向けた新しい方針を示した。今後は数を増やすより、多様性を重視する方向になる。また、国際的なネットワーク機能を充実する

  • Q&A

Q:ユネスコスクールに関し、多様性を重視するとはどのような意味でしょうか?

A:ユネスコスクールが行っている様々な取り組みを妨げたくないと考えています。その学校ならではの特色のある活動を進めてもらいたいという趣旨です。

第1部プレゼン資料

第2部:気候変動問題について考える

認定NPO法人気候ネットワーク 国際ディレクター 平田仁子さんに、2050年カーボンニュートラルに向けて大きなうねりが生じている気候変動問題について、最新の内外の動向と気候変動問題に関する教育の在り方について、長年にわたり国際的な活動に携わってきた立場からお話しいただきました。平田さんは、車座トークの数日前に、環境のノーベル賞とも呼ばれるゴールドマン環境賞を受賞しました。多数のインタビューでお忙しいなか、ESD-Jのために時間を割いてくださいました。

  • 気候変動の現状

・もともと教育学を学んだので、気候変動と教育の問題について改めて考えた。

・20数年間、国連や国に対して政策提言活動を行ってきた。

・世界中の1,500ものNGOが気候行動ネットワーク(CAN)を通じて繋がっている。

・世界のCO2排出量は増え続けている。地球の平均気温も産業革命前から1.3℃ほど上昇。

・2015年に合意されたパリ協定では気温上昇を2.0℃、できれば1.5℃以内に抑えることを合意。そのため、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指す。

・2018年にIPCCによる1.5℃特別報告書が公表され、1.5℃でも大きな被害があり、2℃では極めて深刻な影響があることを明らかにした。また、早ければ2030年に1.5℃上昇する可能性があり、1.5℃以内に抑制するためには2030年にCO2排出量を45%削減し、2050年に実質ゼロにすることが必要と特別報告書は示唆している。

https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

・国連環境計画のEmissions Gap Report2020では、1.5℃に止めるためには、CO2排出量を2019年の590億トンから2030年には250億トンに減らすことが必要と指摘。

Emissions Gap Report 2020 (unep.org)

・既に様々な深刻な異変が生じている。幾つかのティッピングポイントを超えたとの指摘もある。

・最大の温暖化の要因である石炭火力を2030年までに大幅削減することが必要。

・国連事務総長は、各国の行動強化を要請している。具体的に2030年までにCO2排出量を45%削減、2050年には実質排出量ゼロに、新規の石炭火力は全面的に中止すべき、先進国は2030年までに、世界全体で2040年までに、石炭火力を全廃すべき。

・日本を含む120か国以上が2050年までにCO2排出量実質ゼロをコミットしている。

  • 日本の動き

・近年の6年間は温室効果ガス(GHG)排出量が減少傾向にある。但し2050年ゼロを達成するためには極めて大きなギャップがある。

・石炭火力は国内で最大のCO2排出源。石炭火力は既に多く稼働しているだけでなく、今後も新規建設の予定がある。日本は、世界の方向性に完全に逆行している。

・気候ネットワークからは、2050年ネットゼロに向けて提言を行った。その際、弱い立場の人たちへの支援が重要とも指摘。

・教育現場でも知恵と広がりが必要。今までの小まめな省エネなどを超える対策が必要。教育現場での学びと共有が重要。産業構造の変革をもたらすような、次世代に引き継ぐビジネスと雇用を導き出すこと、未来に向けて明るいビジョンを示すことが求められる。

  • 気候変動教育のあり方

・教育現場では地球温暖化に関する知識は教えられている。また、小まめな省エネやマイバッグなどのエコ活動に取り組んでいるが、気候変動問題はそのような活動だけでは

解決できない。社会の仕組みを根幹から変えることが必要であり、自らが変化の担い手(change agent)であることを認識することが重要。

・日本財団による18歳の意識調査(9か国比較調査)によれば、自分は責任ある社会の一員である、自分で国や社会を変えられると考えている若者は日本が極端に少ない。また、自国が良くなると考えている若者の割合も9か国中最も低い。

・Friday for Futureなど、世界的にも日本国内でも若者の活動が活発化しつつあるが、日本の場合には、留学経験がある等特別な環境の者が多く、普通の学生には広がっていない様に感じられる。

・今の若者には、個人の行動を超える大きな課題には向き合わない傾向、他人と違う目立つ行動を避ける傾向があるのではないかと感じている。子どもも教員も忙しすぎて重要な社会課題を考えていない傾向があるように思う。また、大人の関心の低さを見て若者が冷めた態度になっているのではないかと感じている。

・日本では気候マーチに3,000人が参加した。他方、他国の中には50万人参加している国もある。そのスケール感の違いは、社会や政治に向き合う姿勢の違いではないか?グレタ・トゥンベリは、権力者に自分たちの声を伝えて、権力者が自分たちを無視できないようにすることとインタビューで話した。日本の若者ももっとアグレッシブになることが必要。

・元・気候変動枠組条約事務局長が書いた”The Future We Choose”で述べている「未来は変えられる」という楽観(Global Optimism)を持つことが重要。

・この10年間の行動で1.5℃目標の達成の成否が決まる。「傍観せず、見過ごさず、先延ばしせず、他人任せにせず、希望を持ち、自らの力を信じ、選びたい未来を形にするために社会経済システムの変化に向けて行動する」ような人材育成が求められていると考える。そのような人材育成に向けてESD関係者との連携の可能性を探りたい。

第2部プレゼン資料

  • Q&A

Q:気候変動教育と合わせて起業家教育などは他国では行われているのでしょうか?

A:この問題に詳しくないので直接の回答はできませんが、特に北欧の国などでは、小さい時から多様性を尊重し、そこから何を学び取るかという教育を受けています。社会とのつながりを常に意識することが起業家精神の基盤になるかもしれません。

Q:本当に石炭火力発電や原子力発電をゼロにしてやっていけるのでしょうか?

A:原子力発電は今後現実的にはもう無理と考えられます。将来を考えれば、コスト的にも再生可能エネルギーの方が安くできると考えます。10年あれば本当にやる気があればできると考えます。

Q:日本の学校教育では政治を教えることがタブー視されているので、世界のダイナミズムが学べない、そのために上手く行動に結びつけられないのではないでしょうか?

A:その通りだと思います。特定の政治思想に偏る必要はないと思いますが、社会の活動が政治と関わっていることを認識し、政治に関心を持つことは、変革を進めるために必要だと考えます。教育が政治と隔絶していることには強い違和感を覚えるので、政治を意識した教育を期待したいです。

Q:カーボン・ニュートラルに向けた大学等コアリションができ、人材育成ワーキング・グループを立ち上げたので、そちらと連携できると有難いです。

A:大変重要と考えるので、ぜひ連携していきたいと考えます。大学生だけでなく、もっと若い世代の人たちに対する人材育成もできると良いと思います。

Q:気候変動問題がなぜ今これほど取り上げられているのでしょうか?

A:気候の問題はSDGsのウェディングケーキの基盤をなす部分であるので、この問題を解決することによりSDGs全体の達成に貢献できるためと思います。

Q:水素ステーション等、本当にやる気になればもっとずっと進むのではないでしょうか?

A:今までもやれることはあったが、多くの場合、そのためには社会を大きく変える必要がありました。これまで小手先でできることはやってきましたが、大きな変革を産み出すような覚悟ができていなかったのだと思います。水素は比較的力を入れて取り組んでいる方だと思いますが、政府からの明確なシグナルが出されていないように思います。

閉会挨拶:ESD-J阿部 治代表理事から閉会挨拶が行われました。

<参加者アンケート>

参加者合計86名(うち、講師2名・事務局4名)。アンケート回答者数 58名

・「大変満足」から「とても不満」までの6段階評価のうち、上位2つで67.2%,3つでは89.7%と高い評価であった。

上記、2-1の理由
  • 最新情報を得ることができた。
  • 多くの方々に理解していただく良い内容の講演をしてくださったと思う。話が分かりやすくまとまっていた。
  • 市内・県内学校でSDGsに取り組みたいという学校が益々増えてきており、そういった学校へ現状を伝える上で非常に参考になりました。
  • 最近の様々な動きの全体をフォローすることがなかなか難しい中で、貴重な機会でした。文科省の姿勢についても理解できました。一方、文科省から、という視点が強く、世界会議や国際的動向の全体については少しよく分からないところがありました。
  • ユースが意見を言い、行動に起こす教育を重視する姿勢に共感した。子どもや地域の人の本気度が伝わってきた。
  • 世界のなかでの日本の状況、立ち位置が理解できました。
  • 現場に出席した担当官からのベルリン会議の様子を聞くことが出来たほか、第二期国内実施計画に関する施策立案に携わった方の視点で解説を聞くことが出来た。
  • ベルリン宣言の中身をもう少し詳細に教えていただきたかったです。
  • 最新の情報を知ることができたのは良かったですが、もう少し時間が長くても良かったかなと思いました。
  • 現場に出席した担当官からのベルリン会議の様子を聞くことが出来た。
  • 第二期国内実施計画に関する施策立案に携わった方の視点で解説を聞くことが出来た。
  • ESDドイツ宣言の内容を分かり易く説明して頂けた。
  • 市内・県内学校でSDGsに取り組みたいという学校が益々増えてきており、そういった学校へ現状を伝える上で非常に参考になりました。
  • ESD推進の手引きについて、さっそく調べてみようと思った。
  • 時間が短かった。あと15分くらいあるとよかった。

「大変満足」から「とても不満」までの6段階評価のうち、上位2つで89.7%、3つでは93.1%と大変高い評価であった。

上記、3-1.の理由
  • とても分かりやすく、私たちがすべきことが明確になりました。日本の状況の理解が進みました。
  • 「なぜ温室効果ガスを減らさなければならないのか」など子供たちに伝えていく際の指標となるような素晴らしいお話でした。
  • 気候変動に関する危機的状況から、教育への期待まで、非常に参考になる、また危機感を共有できる・力づけられる内容でした。
  • 現状を知るだけでもとても勉強になりましたが、加えて教育にできること、ESDの重要性を再確認することができました。
  • 気候変動についてはある程度知っていましたが、2030年という期限を切って日本の石炭火力の現状を具体的に聞けたのがよかったです。ずっと以前からもう曲がり角(ティッピングポイント)を曲がってしまったのではないかと言われていましたが、現状を知り希望を捨てずにできることから取り組む若者を育てていきたいと思います。
  • 今、大きなエネルギー政策の転換が必要なのに、グローバルな流れに日本は逆らっていることが恥ずかしいと思った。ざっくりとした情報は知っていたが、石炭火力の発電所があんなにも新たに建設されていることは知らなかった。教育現場で小さいころから情報の取捨選択やクリティカルシンキングについての訓練が必須だと思った。
  • 世界的な流れと日本の特徴を踏まえながら、具体的にお話くださり、さらに希望を持てるような内容で、とても興味深い時間だった。
  • もう待てないという、切実感をかき立てられる内容に、非常に心動かされました。「身近なところ」での行動ではもう足りないのだと思いつつ、それもまた一つの学校教育の役割でもあると思い、双方向からの子どもの価値観の変容を目指して取り組みたいと感じました。
  • いかに政府が産官学と連携して推進すべきことが多いか・・・良く理解出来ました!その一方で、我々一般市民レベルですべき事、出来る事がよりクリアになりました。私の活動に活かして行きます。
  • 気候変動問題に対して、教育がどうアプローチすべきか考えることができた。
  • ユースへの支援と社会参画の大切さ、青少年教育施設としての主権者教育の在り方等について再考させられた。
  • NGOの立場から、気候変動問題について小学生や中学生と学ぶ機会をもちたいと思っています。私自身は、気候変動問題に対して日本の学校教育がなっていないと結論付けること(そのように他に思わせること)が大事なことではなく、大人として子どもたちと学び続けること、見方・考えや感じ方を広げたり深めたりするためにESD推進の一翼を担っていくことが大事だと思っています。平田さんの講演から、教材化する上で基本的な問題点・方向性、可能性などを確認することができました。
  • 自然エネルギーがすべてのようなお話をされていましたが、コストや不安定性など自然エネルギーも問題が多い。原子力を簡単に切り捨てるのはどうかと思う。

4. 車座トークには、何を期待して参加しましたか

  • ESDに関する最新情報の入手
  • ベルリン宣言の中味と気候危機の課題そのもの
  • 国内実施計画の解説
  • 第二期国内実施計画の詳細等について担当者からの情報収集
  • 「気候変動問題をどのように教材化できるか」について参考にする。
  • その他、多数

参加者からの意見・感想・自由記述
  • あっという間に5度の上昇はしてしまいそうです。知らないことは罪だなと改めて感じました。
  • 本日のご発表資料をウェブサイトに掲載されるとのお話でしたでしょうか。ぜひいただきたいと思います。よろしければDL可能になりましたらお知らせいただけますと大変ありがたいです。
  • 当日スライド資料は、予め手元にあると理解しやすいのですが、難しいのでしょうか?
  • 国家レベルで本当に一つひとつ、課題を絞り上げ、期限を切って取り組んで効果を上げていかねばならない。
  • これからも参加したいです。ありがとうございました。