
2022年11月20日に開催した今回のESDカフェは長崎県対馬市に生息する絶滅危惧種であるツシマヤマネコをテーマに、ツシマヤマネコと人が共存するために、私たちが出来る事を考えるオンラインセミナー&ワークショップを実施しました。
20名が参加し、最年少は幼稚園年中さんで(1名)、小学生低学年が2名、残りは成人でした。オンライン実施であったため関東、四国、近畿、九州と様々な地域から参加していただきました。時間の都合がつかなかったが是非、後から動画を共有してほしいと希望する方も複数名おられました。
プログラム
- 趣旨説明
- キム・ファンさんの紙芝居「どうぶつ どっちがどっち︖」(童心社)
- 神宮 周作さんのお話「人とヤマネコが暮らす島・対馬 ~野生動物との共生に向けて~」
- 吉野 元さんのお話「ツシマヤマネコとの共生を目指す佐護ヤマネコ稲作研究会の取り組み」
- キム・ファンさんの紙芝居 「ツシマヤマネコのシマ」
- ワークショップと全体共有
まず、アイスブレイクとして絵本作家のキム・ファンさんから紙芝居「どうぶつ どっちがどっち︖」を披露していただきました。似ている2種類の動物がどっちか見分けられるかなという紙芝居で、最後に今回のテーマの「ヤマネコ」が登場しました。
対馬市農林水産部自然共生課係長 神宮 周作さん
「人とヤマネコが暮らす島・対馬 ~野生動物との共生に向けて~」
ツシマヤマネコを育む対馬の環境の特徴、そして島の豊かな生物多様性がもたらす恵み、対馬の生態系ピラミッドの頂点にツシマヤマネコが位置すること等をご説明いただきました。また、ツシマヤマネコと猫の違い、見分けるポイントについて教えていただきました。
ツシマヤマネコの最も大きな脅威は交通事故です。ツシマヤマネコは現在100頭程度が生息していると考えられていますが、その貴重なツシマヤマネコが年平均5頭程度が交通事故によって失われてしまっています。若い元気なツシマヤマネコが事故の被害にあってしまうことが多いそうです。
もう1つの脅威は、病気の感染です。FIV(ネコ免疫不全ウィルス)、FeLV(ネコ白血病ウィルス)という治療方法の確立していない感染症が猫からツシマヤマネコに感染する事例が報告されています。病気に感染したツシマヤマネコは施設で保護され、野生には戻れません。家猫よりも野良猫がこれらに感染している事例が多く、ネコ適正飼養条例による登録の義務化、繁殖制限、野良猫の餌付けの禁止等で野良猫の数を増やさないように取り組んでいますが、なかなか数が減らないそうです。
最後に、ツシマヤマネコを頂点とする陸の生態系ピラミッドと、海の生態系ピラミッド、その2つを合わせると「生態系ダイヤモンド」となり、地元の人たちが自然の環境を守り、活かすこと、それを踏まえて全国の人が対馬の豊かな生物多様性の価値を認めることで対馬の「生態系ダイヤモンド」を守る=生物多様性保全に繋がるという説明をしていただきました。
佐護ヤマネコ稲作研究会 吉野 元さん
「ツシマヤマネコとの共生を目指す佐護ヤマネコ稲作研究会の取り組み」
ツシマヤマネコは、10万年から対馬に生息していると言われている貴重な動物です。ヤマネコとの共生が、対馬の持続可能性に深く関わっています。
佐護ヤマネコ稲作研究会は、農家(8名)、佐護区長、対馬市職員、対馬野生生物保護センター、どうぶつたちの病院獣医師、住民、MIT等がメンバーとなり様々な活動を行っています。ヤマネコ米(自主認証基準:減農薬/減化学肥料)の生産販売、会合や勉強会、田んぼの生きもの調査、生き物に配慮した環境整備、ツシマヤマネコ保全活動への寄付などが主な活動です。
佐護ヤマネコ稲作研究会の田んぼでは、ツシマヤマネコの餌となる生きものが生息しやすいよう減農薬、減化学肥料の米作りを行っています。これは、田んぼの生きもの・ヤマネコにとって、そして生産者、消費者の3者にとってWin-Win-Winの取り組みになっています。
2018年に実施された生態調査では複数のツシマヤマネコが実際に水田を利用していることが確認されました。田んぼに出てくるヤマネコの姿はしばしば確認されています。生きもの豊かな田んぼには、ツシマヤマネコ以外にも夏場にはサギが、冬場には雁・カモ等の渡り鳥が餌を求めてやってきます。
最後に田んぼのオーナー制度についてご説明いただきました。田んぼの一部のオーナーになっていただき、そこから獲れたお米をオーナーさんにお届けする、田んぼで行われるイベントへの参加権、農家さんの情報の提供などを得られる仕組みです。自分たちの食べるお米がどのように生産されているかを知る貴重な機会となっており、子どもたちも多く田んぼのイベントに参加しています。オーナーの参加口数、ヤマネコ米の販売量は幸い年々増えているものの、より多くの皆様にご支援いただければ幸いです。
今後の課題については、田んぼの取り組みがヤマネコなど生きものに与えている効果の検証、研究会の活動を支えてくださる仲間を増やしていくことです。お米を販売してくださる方、購入してくださる消費者、そして研究・調査をしてくださる方などに仲間になっていただきたいです。
参加者からは、以下のような感想が寄せられました。
■特に印象に残ったことは何ですか?(以下回答抜粋)
- 対馬の土地が知れたこと、参加者の方々で話し合いができたこと、可愛い紙芝居が見られたこと!
- 学ぶ(紙芝居)ことと考える(ロールプレイ)ことと共有するパートがあり、全体の構成がとても勉強になった。また、それらを通して、「自分事」になると感じた。
- 紙芝居:子どもたちがかぶりつきで見ていて、「どっちがどっち」では画面を指さしあーだこーだと大騒ぎでした。シマが車にひかれそうになった時は怖くて目をつぶり、思いっきり感情移入していました。
- 講師の方のお話:写真が多くてとてもわかりやすく、大変勉強になりました(ちなみにどれがツシマヤマネコかというクイズは親が外れて子どもが当てました・・・)。交通事故や野良猫の問題など、ツシマヤマネコをとりまくいろいろな課題がある中で、試行錯誤しながら守っていこうとされていることがよくわかりました。
- ツシマヤマネコの保護には、地域全体の取り組みが必要で付け焼き刃の対処法では不十分であること。低農薬で管理されている田んぼを田んぼとして維持することは、高齢化が進む地域では非常に大変だが、環境教育の一環として地域の子どもたちや、他の地域の関心のある方が関わることで可能となることを学んだ。
- マシマロ・バンパーという柔軟な発想があって面白かった。
■ワークショップはいかがでしたか
- 大変良かった 6名 2. 良かった 3名 3. このパートに参加できなかった 1名
- 自分の意見だけでなく、様々な人から意見が出たので面白かったです。
- ロールプレイを用いることで、考えもしなかった視点を考えるきっかけになるとともに、「その人(発言者)」を肯定も否定もしない手法だと感じた。
- どんな意見も受け入れてくれて、とてもお話しやすく、ありがたかったです。ロールプレイをすることでより理解が深まりました。
- 意見交換しやすい様に工夫されていてよかったです。子どもさんの参加もいいですね!
- 色々な立場の意見がきけて、勉強になりました。仲介者の話がリアルで現状を知ることができ、よかったです。
■自由なコメント(以下抜粋)
- ツシマヤマネコについて、その大枠をしることができたこと、そして、ヤマネコを取り巻く環境がどのような状況にあるのかを知ることができた。複数講師だったが、切れ目なく、プログラムが進んでいたため、学びの充実につながった。
- 本当に楽しく、学びの多い時間をありがとうございました。子ども達にとってもとてもインパクトがあったようで、寝る前にも思い出して兄妹でツシマヤマネコの話をしていました。私の出身が瀬戸内海の島で、やはり島にしか生息しない種があることは知っているのですが、保護活動等については全然知らないので今度聞いてみようと思います。
- このようなワークショップは、小学生~高校生でも大人のサポートがあれば十分理解できるので、学校現場でも活用してもらえればと思った。
- お金がかかるだろうとは思いますが、もっとネコ走りを有効活用していければ良いですね。
- 島外に住む私たちができること、やってほしいことあれば教えてください。
- これからもツシマヤマネコ関連のセミナーがあればぜひ教えてください!
- これからもツシマヤマネコを守ってください。楽しかったです。
参加者の皆様の感想からは、ツシマヤマネコをめぐる環境や課題についてきちんと知っていただけたこと、そして知ったことで島外に住む私たちでもできることはないか、もっとツシマヤマネコのことを知りたいという次のアクションに繋がる学びとなったことが読み取れました。実際にツシマヤマネコ米のご購入をしていただいた参加者も多く、本イベントの狙いである「行動変容に繋がる学び」の創出ができたのではないかと思っています。
本イベントの開催にご協力いただきました神宮さん、吉野さん、そしてキムファンさん、誠にありがとうございました!
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※本事業は、公益信託大成建設自然・歴史環境基金の助成を受けて実施しています。